舶用エンジンメーカーで検査不正が相次いで発覚し、各社が原因究明と再発防止策の策定を急いでいる。IHI子会社のIHI原動機、日立造船(現・カナデビア)子会社の日立造船マリンエンジンとアイメックス、さらに川崎重工業―の大手3グループの4社が一時的にエンジンの出荷停止に追い込まれたことで、造船業界にはどのような影響が出ているのか。そしてエンジンメーカー各社の言い訳とは。(ダイヤモンド編集部 井口慎太郎)
日本の強みだったはずの造船業界での醜聞
信頼回復へ、うみを出し切る改革が急務
改竄(かいざん)の手口は、シンプルかつ大胆なものだった。不正があった4社のうち1社、IHI原動機の親会社、IHIは8月に公表した調査報告書でエンジンを出荷前に運転して検査する際、燃料を本来と別の経路から給油したり、実測した燃料消費率と違う数字を提出したりしていたと明らかにした。カナデビアの子会社2社は本来と違う燃料消費量を表示させる細工をしていた。
そもそも、なぜ燃料消費率を改竄する必要があったのか。
海洋汚染防止法は舶用エンジンの排ガス中の窒素酸化物(NOx)放出量を規制している。NOxが健康被害をもたらす恐れがあるからだ。そのため、船の部品の品質をチェックする船級協会が国を代行してエンジンを検査し、クリアしたものだけが証書を受けて流通するようになっている。証書を受けたエンジンを「親機」として、同じ仕様の「子機」もお墨付きを得た形となる。
一般に、NOxと燃費はトレードオフの関係にあるとされる。NOxを低減させると燃費が悪化して顧客が求める仕様にそぐわなくなる場合があるため、帳尻を合わせるために不正が行われた格好だ。
問題が明るみになると、舶用エンジンの環境規制を監督する国土交通省は、4社への証書の発行を停止。各社は一時的にエンジンの出荷を停止せざるを得ない事態となった。
次ページでは、エンジン出荷停止が造船業界に及ぼした影響や損失の補償の責任、不正が起きた要因、さらには舶用エンジンメーカーのあきれた言い訳を明らかにする。