近ごろよく目にする「香害」。合成洗剤や柔軟剤、化粧品などに含まれる合成香料によるトラブルだ。特に深刻なのが「化学物質過敏症」。一度発症すると、全身に脈絡なくさまざまな症状が出て、日常生活や社会生活に支障を来す。患者数は約120万人とも言われるこの病気の病態や発症メカニズム、診断方法や対策などについてわかりやすくまとめた『化学物質過敏症とは何か』が出版された。この本の著者で、化学物質過敏症治療を第一線で行う、近畿大学医学部予防医学・行動科学教室の渡井健太郎医師に話を聞いた。(執筆/西所正道 編集/三島雅司 監修/近畿大学医学部予防医学・行動科学教室 渡井健太郎)
症状によっては退社や離婚、
自殺に至る例も……
――化学物質過敏症とは、どんな症状が特徴でしょうか?
渡井健太郎(以下、渡井) 化学物質というのは、洋服についた洗剤、薬剤、排気ガス、カーペットや家具に使われる素材、あるいは食物などに含まれる物質など、日常生活にありふれた物質です。多くの人は何も感じないのですが、化学物質過敏症を発症すると、微量な物質にも反応してしまって、じんましんや咳、腹痛、下痢、めまい、吐き気、呼吸困難、聴覚・視覚過敏といった症状に悩まされるのです。
勤める会社の備品や有機溶剤で化学物質過敏症になったとして労災申請したり、症状が重くなって勤務ができなくなり会社を辞めたりする方もいます。
また、化学物質過敏症以外の疾患で病院にかかる場合、「私は化学物質過敏症の患者です」と伝えると、薬剤に反応する危険性が予測できないため、診察そのものを門前払いされる方が少なくありません。
また子どもは密着して遊ぶので、学校で友だちの洋服に付いた香料を付けて帰宅したわが子の匂いに耐えられず、悩んでいる女性患者さんがいらっしゃいますね。