運動をすることで
「脳過敏」が改善することも

――症状の改善のために、患者さん自身ができることはありますか。

渡井 脳に対して保護的な効果があり、医学的なエビデンスがあるのは運動ですね。運動だけで完治させるのはかなり難しいと思いますが、なかでも筋トレ系はいいと思います。

 運動をすると、筋肉からマイオカインという物質が出るんです。それによって脳の健康を保つ物質の分泌が促されるので、脳過敏を抑えることにつながる可能性があるのです。筋肉隆々になるぐらい熱心に運動した結果、日常生活に支障がない程度まで改善したという人がいました。ただ、運動がどの程度回復に関与したのかは、まだまだ研究を要します。
 
 もう一つの対策は、腸内環境をよくすることです。脳と腸は互いに影響し合っているので、腸の状態がよくなると脳の状態もよくなり、脳過敏の改善につながります。

 あとは、睡眠をよく取ることですね。こうしたことは、さきほど言った“予備軍”の方が発症しないための予防にもなります。

――これからの課題はなんでしょうか。

「まさに生き地獄」化学物質過敏症はどうすれば治るのか?【専門医が謎の病を解説】『化学物質過敏症とは何か』
渡井健太郎著
集英社新書
990円(税込)

渡井 病気の診断・治療に関する手引きやガイドラインを確立することですね。ガイドラインができれば、もっと多くの医師がこの病気を診断、治療できるようになりますし、他の診療科の医師も化学物質過敏症の患者さんの治療や手術にかかわりやすくなります。この病気の治療を積極的に行う医師の中に、ガイドラインをつくろうという動きがあります。

 化学物質過敏症は、長い時間をかけて問診しないと治療ができない病気です。長い時間をかけると、他の患者さんの診療ができなかったりして両立ができにくい。それが化学物質過敏症を診察する医師が増えない原因でもあります。

 そうした現状について、私たちがもっと社会に広く知ってもらう努力をし、治療環境をよくするために働きかけていかなければと思っています。