多くの人はそうした微量の物質を、感じても忌避感は薄いので、困っている本人の深刻さを理解できず、つい「気のせいだ、気にしすぎだ」などと言ってしまいます。すると患者さんはつらさをわかってもらえず離婚を余儀なくされたり、一人悩み、孤独にさいなまれ、自殺されたりする方もいて、まさに生き地獄です。

――化学物質過敏症はアレルギーの一種かと思われがちですが、新著『化学物質過敏症とは何か』の中で否定されていましたね。

渡井 アレルギーを発症するときは、例えばダニや卵といった特定のアレルゲン(抗原)と、それに反応する抗体とが「1対1」の関係になりますが、化学物質過敏症では、共通点のない物質にたくさん反応してしまうのです。

 化学物質過敏症は化学物質が原因だと思っている方が多いですね。確かに、この化学物質が悪いという考え方から「その物質を避ける」という対処方法が多かったのですが、完全に避けても根本的な解決にはならないんです。

 化学物質に過敏に反応はするけれど、それが根本原因ではない可能性があるんです。厳密に言えば化学物質は「誘引」、つまり引き金なんです。誘因ではあるので、化学物質により体調が悪化するのであれば、それを可能な範囲で避けることは大切ですが、避ければ治るというものでもなさそうです。

 実は化学物質過敏症の患者さんに比較的共通して認められる「素因」があって、それは「脳過敏」です。多くの人が感じないことでも脳が必要以上に感じてしまう状態です。そうした素因がある上に、化学物質に対する敏感さが生まれてくるというわけです。

米国では人口の12.8%
という高い有病率

――どれぐらいの患者さんがいるのでしょうか?

 日本では120万人ぐらいいると言われています。人口の約1%です。ちなみにアメリカでは、医師による診断を受けた人の数は人口の12.8%もいます。なぜこれだけ違うのかというと、日本では化学物質過敏症の認知度がアメリカよりも低いからではないかと思います。認知度が上がれば、日本でももっと増える可能性があります。