このように、マグダラのマリアに見紛うようなヨハネの単体像の例も少なくはないが、ここではもうひとつ、ダ・ヴィンチの弟子であったジャンピエトリーノ(活躍期1495-1549)の作品(1530年頃、ミラノ、アンブロジアーナ絵画館)を挙げるにとどめよう。
この絵では、杯のなかに蛇は描かれておらず、モデルはもっぱら師ダ・ヴィンチのトレードマークである謎めいた微笑みを返しているだけだから、ヨハネなのかマグダラのマリアなのか一見したところ区別がつきにくいことになる。
ヨハネをめぐるジェンダーのあいまいさは、おそらく画家自身によって最初から意図されていたものであったろうと想像される。ひるがえって言うなら、このことは、そうしたあいまいさをむしろ楽しむパトロンや観衆が存在したということでもあるだろう。
こうした表現が出てくる背景には、古くから人々の想像力のなかで、イエスとの愛をめぐって、使徒ヨハネとマグダラのマリアとのあいだで、三角関係にも似た葛藤のストーリーが語られてきたという経緯があったように思われる。それもこれも、イエスとのどこかクィアな愛が原因しているのだ。