キリストと男と女の三角関係が
観衆の想像力を掻き立てた
さらに、ピエロ・ディ・コジモ(1462頃-1521)の美しいタブロー画(1504年、ホノルル美術館)になると、一目見ただけではどちらなのか即断しがたいところがある。その表情はあどけない少女のようにも少年のようにも見える。
決め手となるのは場面の左手前にある、蛇のいる杯で、これは図像的に使徒にして福音書記者ヨハネのアトリビュート(持物)とされてきた。
というのも、やはりウォラギネの『黄金伝説』によると、イエスの信任厚いヨハネは、毒杯による暗殺計画に巻き込まれたことがあるのだが、それをも跳ね返すほどの力があったからである。
とはいえ、マグダラのマリアも、イエスの遺体をぬぐう香油の壺とともに描かれてきたから、杯と壺の違いはあるとしても、2人のアトリビュートもよく似ているといえば似ているのである。
参考までに、やはりピエロ・ディ・コジモがほぼ同じころに描いた美しい《マグダラのマリア》(ローマ、バルベリーニ宮国立古典絵画館)を並べて掲載しておこう。真珠の髪飾りを外して、垂れた髪をもう少しだけ短くすると、同じモデルではないかと思われるほど、ヨハネと瓜二つに見えないだろうか。