これまで「悩み解決本」の著者といえば僧侶、コンサルタント、臨床心理士などが多かった。だが、今、現役バリバリの経営者の「悩み解消本」が話題となっている。それが『「悩まない人」の考え方 ── 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』(木下勝寿著)だ。本書を「『飛び抜けて面白い必読の一冊。心から「買い」!!」と絶賛しているのが、今年創刊20年を迎えた「ビジネスブックマラソン」編集長・土井英司氏。今回は3万冊を読んできたビジネス書の目利きが本書の読みどころについて特別寄稿した(構成・ダイヤモンド社書籍編集局)。
問題解決の3つの方法
これまで、2回にわたり話題書『「悩まない人」の考え方』のエッセンスをお伝えしてきた。
第3回目は、私がこれまでに読んできた「仕事の悩みを消してくれる本」を一挙に紹介しよう。
前回、『「悩まない人」の考え方』で示されている、問題解決の3つの方法を紹介した。
少しおさらいしてみよう。
(1)問題そのものを解決する
(2)問題を問題でなくする
(3)問題を「具体的な課題」に昇華させる
(2)の「問題を問題でなくする」方法は、内田和成さんの『論点思考』を引きながら解説したので、今回は(1)と(3)について、役立つ本を紹介してみたい。
要するに、問題解決の本と、問題を「具体的な課題」に昇華させるヒントをくれる本だ。
おすすめの「問題解決」の本
❶エリヤフ・ゴールドラット著、三本木亮訳、稲垣公夫解説
『ザ・ゴール ── 企業の究極の目的とは何か』(ダイヤモンド社、2001年)
この本は、読者が生産性に関する問題を抱えている時に役立つ本だ。
TOC(Theory of Constraints:制約理論)を解説したもので、要するに生産する組織やシステムの全体最適を実現するために、制約条件(ボトルネック)に注目して改善する手法である。
本書には、「部分最適」と「全体最適」という言葉が出てくるが、組織の場合、営業マンが一生懸命掛け売りで契約を取ってきた場合(部分最適)、かえってキャッシュが減少する(全体最適の失敗)ことが起こりかねない。
本書は、この手の本にしては珍しくビジネス小説仕立てになっており、主人公の工場長・アレックスの奮闘ぶりを読んでいくと、生産性の真実がよくわかるようになる。
問題を「具体的な課題」に昇華させるヒントをくれる本
次に紹介するのは、トヨタ生産方式の産みの親、大野耐一氏による名著である。
❷大野耐一著
『トヨタ生産方式 ── 脱規模の経営をめざして』(ダイヤモンド社、1978年)
「ムダ取り」で知られるトヨタだが、この本には、ムダを体系化した「7つのムダ」という概念が出てくる。7つのムダは、以下の通りである。
・つくりすぎのムダ
・手待ちのムダ
・運搬のムダ
・加工そのもののムダ
・在庫のムダ
・動作のムダ
・不良をつくるムダ
現在の生産プロセスの中に、こういったムダがないかチェックする。
漠然と生産性の低さを嘆くのではなく、自社のムダを「見える化」し、『「悩まない人」の考え方』で触れられていたように、問題を「具体的な課題」に昇華させるのである。
戦略の「ズレ」に気づける本
ここまで供給サイドの生産性について述べてきたが、ビジネスの場合、需要が弱いと経営に深刻な影響を与える。
だからこそ経営者は、組織の戦略にズレがないかをチェックしなければならない。
そこで役立つのが、次の本である。
❸鈴木博毅著
『「超」入門 失敗の本質 ── 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ』(ダイヤモンド社、2012年)
日本軍の敗戦の理由を分析した名著『失敗の本質 ── 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ』(中央公論新社、1991年)の超訳版であるが、マーケティングコンサルタントでもある著者の鈴木博毅氏は「戦略」をこう表現している。
「戦略とは“追いかける指標”のことである」
「追いかける指標」が間違っていれば、経営はうまくいかない。
当たり前の話だが、ゼロ戦は「軽さ」「速さ」を追求したため勝てなくなったわけで、敗戦の歴史から学ぶことは多い。
消費者の行動変化がわかる本
ビジネスにおいて指標の変更はなぜ起こるのか。
それは消費者の行動が変わるからである。
「所有から使用へ」というのもそうだし、「リセール」を重視した消費、「環境に配慮」した消費も今の時代は見逃せない。
企業はこういった変化に対応すべく、指標の見直しを行うべきなのである。
企業が行き詰まるときは、得てして消費者の行動の変化、需要の変化がある。その実態をつかむうえで参考になるのが、次の本だ。
❹クレイトン・M・クリステンセン他著、依田光江訳、津田真吾解説
『ジョブ理論 ── イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ジャパン、2017年)
本書では、消費者が商品を買うことの本質が、こう説明されている。
<私たちが商品を買うということは基本的に、なんらかのジョブを片づけるために何かを「雇用(ハイア)」するということである。その商品がジョブをうまく片づけてくれたら、後日、同じジョブが発生したときに同じ商品を雇用するだろう。ジョブの片づけ方に不満があれば、その商品を「解雇(ファイア)し、次回には別の何かを雇用するはずだ」>
「なぜうちの商品は売れないんだろう?」と漠然と悩みを抱える前に、この「ジョブ理論」で、自社の商品がどんなジョブをどんなふうに片づけているのか、チェックするといい。きっと課題が見つかるはずだ。
イノベーションに役立つ本2冊
最後に、イノベーションに役立つ本を2冊まとめて紹介したい。
1冊目はこの本だ。
❺前川正雄著、野中郁次郎監修
『マエカワはなぜ「跳ぶ」のか ── 共同体・場所・棲み分け・ものづくり哲学』(ダイヤモンド社、2011年)
冷凍技術の前川製作所がなぜ超電導、ロボット、バイオなどの新分野に進出できたのか、その秘密が書かれている。
元々の主力商品だった冷凍機の「場所」を見渡すことで、鶏肉を解体するロボットの需要が見えてくる。
この「場所」を見渡し、「跳ぶ」手法は、イノベーションに悩む経営者を救ってくれるはずだ。
2冊目は、『東京防災』はじめ数々のヒットを生んだデザインストラテジストによる次の本だ。
❻太刀川英輔著
『進化思考[増補改訂版]―― 生き残るコンセプトをつくる「変異と選択」』(海士の風、2023年)
この本には、企業が「変異」を遂げるための9パターンが紹介されている。
「変量」極端な量を想像してみよう
「擬態」欲しい状況を真似てみよう
「欠失」標準装備を減らしてみよう
「増殖」常識よりも増やしてみよう
「転移」新しい場所を探してみよう
「交換」違う物に入れ替えてみよう
「分離」別々の要素に分けてみよう
「逆転」真逆の状況を考えてみよう
「融合」意外な物と組み合わせよう
この9つの切り口なら、イノベーションのきっかけはあっさりと見つかるはずだ。
以上、この3回の記事で経営者・ビジネスパーソンの皆様の悩みが少しでも消えていれば幸いである。
(本稿は『「悩まない人」の考え方──1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』に関連した書き下ろしです)