具体的には、トマトやパプリカなど利益が出て競争力ある農作物に集中する戦略のもと、IT・デジタル技術を活用するスマート農業によって、単位面積当たり収穫量を世界最高水準まで向上させ、品質アップや自動化による人件費の抑制なども実現している。
先ほどのポーター教授の4条件に照らしてみると、(1)これまでも農業国であったという「要素条件」、(2)欧州を中心とする輸出市場という「需要条件」、(3)IT・デジタル産業という「関連・支援産業」、そして(4)政府のビジョン「オランダ農業ビジョン2025」も後押しする「企業の戦略、構造、およびライバル間競争」が揃っている。
国家としてのビジョンを持ったうえで、作物や対象市場についての明確な選択と集中、そのスマート農業の実現を強力に支えるIT・デジタル分野での技術開発と技術投入が奏功している。こうして、農業分野でのイノベーションを実現しているオランダには、ネスレやユニリーバなどのグローバル食品大手企業もイノベーションの創出の場として注目して拠点を構えるほどだ。
企業の競争戦略の定石は
国家の競争戦略にも当てはまる
このオランダの事例で注目したいのは、今まさに企業の競争戦略で言われている定石を、そのまま国家の競争戦略にも当てはめて考えることができることだ。
企業では、その企業が何のために社会に存在するのかという「パーパス」を明らかにして、そのパーパスを達成するために中長期的になりたい姿である「ビジョン」を定め、そのビジョンに向かって進んでいくための道筋とそこでの経営資源配分の指針となる経営戦略を策定することが求められている。