そしてこの経営戦略は、具体的にはビジョンに向かって、どの市場で(where)、何を自社の強みとして(what)、どのように持続的な競合差別化を実現していくか(how)から構成される。先ほどのオランダの農業の事例では、ビジョンのもとで、これらwhere / what / how が明確になっていること、特に「強み」である “what” がスマート農業のためのIT・デジタル技術としてダントツになっていることの重要性が理解できる。
国もパーパスを明らかにして
ビジョンを定め、戦略的に進んでいくとき
こうして見たときに、これからの世界において、日本という国のパーパスはいまだ明らかとは言えず、そのためどのような国になりたいかというビジョンもはっきりしない。そして、企業で言えば事業部門ごとの組織縦割りのために中期経営計画といった主要な戦略さえもばらばらの事業計画をホッチキスで留めただけにすぎないと揶揄されることがあるが、国の戦略も各省庁の予算をホッチキスで留めただけにすぎないかのように見える。
たとえば、世界的な重要課題のひとつである脱炭素について、日本は2023年7月に「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」(GX推進戦略)を閣議決定し、グリーントランスフォーメーション(GX)を通じて、脱炭素、エネルギー安定供給、経済成長を同時に実現するとしている。
ただ、そこには世界にあまたの国々がある中で日本という国がどのような価値を発揮していくかというパーパスの議論が見えないし、日本がどのような国になっていって日本らしくどのような世界を共創していきたいのかというビジョンも明らかではない。そのため、GX推進戦略もメリハリのない総花的なものになってしまっている。
本稿の冒頭でも述べたように、日本の人口減少は大きく進み、気候変動やAIをはじめとするテクノロジー進化といった構造変化もますます進んでいく。今こそ、日本という国の競争力についても、企業の競争力の議論における定石を応用して、ビジネスパーソンからも考えてみるべき時になっている。
日本という国のパーパス、そこからのビジョン、それを実現する戦略である where/what/how。ビジネスパーソンが考えても、ワクワクするはずだ。
(早稲田大学ビジネススクール教授 佐藤克宏)