新たな取り組みを邪魔する、抵抗感のバリアを外す
これらの課題に対し、同社は部分最適ではなく、設計、調達、輸送、据付まで、全工程のデジタル化を進めている。まずは進捗管理を見直した。例えば資材の調達から納品までには、設計、生産、材料発注、製造、出荷など数多くの工程があり、多くのステークホルダーが関与する。そのため、トラブルの発生を迅速に把握することが困難で、対応が後手に回ることが多かった。そこで、工程ごとに細かくリアルタイムに状況を可視化し、問題を先んじて捉える仕組みを導入し、遅延リスクの低減を図っている。
将来的にはAIの活用も視野に入れている。例えば、サプライヤーを選ぶ際に、過去の取引実績と背後関係の情報をもとにしたリスク分析をAIが提示してくれれば、より適切な判断ができるだろう。
川内さんは、「人が新たな取り組みを始めるまでには、いくつものバリアがある」と語る。初めは「知らない」「聞いてない」という認知のバリア。次に「自分には関係ない」という他人事のバリア。その先には、「なぜやらなければならないのか」という抵抗感のバリアが待ち受ける。これらを全てクリアしてやる気になっても、最後に人手不足のバリアが立ちはだかる。これらのバリアを、経営層、部門長、現場レベルなど各階層で、地道に一つずつ解きほぐしていくことが、変革の近道だ。
「一品一葉」オーダーメイド設計の呪縛を解く
瀬尾さんは、建設業界の生産性が上がらないもう一つの要因は「一品一葉」だと指摘する。オーダーメイドで設計する「一品一葉」は、顧客満足につながる大きな差別化要素である一方で、生産性向上の壁となっている。
この課題にいち早く挑んだのが、米国の建設スタートアップKaterra(カテラ)だ。建設業界の垂直統合と標準化に取り組み、ソフトバンクグループも2200億円を投じた注目企業だったが、2021年に経営破綻した。「カーボンニュートラルやクリーンエネルギーへの変革は待ったなしの状況だと社会が認識し、行動変容すれば、労働力不足や生産性向上のため、建設業界にも標準化の波が来る。そうした状況を見据えると、Katerraのアプローチと取り組みは大いに学ぶことがある」と瀬尾さんはいう。
瀬尾さんは、Katerraのコンセプトと、デジタルとの親和性の高いマス・カスタマイゼーションのアプローチも参考にしている。「お客さまにとって価値を生む部分は一品一葉で対応し、お客さまにとって差別化にならない部分は共通部品で徹底的に標準化していけたら」と語る。
これを実現するには、顧客価値と自社の業務プロセスへの深い理解が不可欠だ。例えば、標準化のためにAIを導入したとしよう。AIにできるということは、他社にもできるということ。いずれ横並びになり、競争力も独自性も失われる。だからこそ、どこで顧客満足度を高めるか、競争力を高めるかという視点で、AIを導入する領域と、しない領域を見極める必要があるという。標準化と差別化の境界線を見誤らないことも、DXの要諦だ。