新型インフルエンザが感染エリアを広げている。4月29日、世界保健機関(WHO)は、新型インフルエンザの警戒フェーズを6段階中の5(2ヵ国以上でヒトからヒトへの感染が続き、大流行の危険がある状態)に引き上げた。5月5日現在、世界全体の感染者は1490人に、死亡者は30人に達している。
日本企業も対応に追われている。感染者が822人、死亡者が29人と最大の被害を受けたメキシコへの出張は、大半の企業が原則禁止。駐在員家族の一時帰国を実施した企業も多い。「1万2000枚のマスクをメキシコに送付」(ヤマハ発動機)、「メキシコから帰国した社員は10日間、研修施設に入る」(三菱重工業)など、緊急対応を始めた企業もある。
もっとも、5月6日現在、日本に感染者は出ていない。また、今回の新型インフルエンザA(H1N1)は、当初発生が予想されていた強毒性(全身感染を引き起こす)ではなく、弱毒性(感染が呼吸器に集中する)と見られている。治療薬については、タミフル、リレンザが、合わせて4000万人分以上(国、地方自治体、流通在庫の合算)備蓄されており、当面の必要量は確保されている。
ただし、「不必要な恐怖感はいらないが、安心し過ぎないこと」(本田茂樹・インターリスク総研研究開発部長)が重要だ。
ゴールデンウイークで海外に出た旅行者から日本国内にウイルスが持ち込まれるリスクは否定できない。今回の新型インフルエンザの感染力は高く、ひとたび国内にウイルスが侵入すれば、瞬く間に感染が広がる可能性もある。
インフルエンザの歴史をひもとけば、1918~19年に世界で5000万人超の死亡者を出した「スペイン風邪」のように1年半にわたって断続的に流行したケースもある。しかも、第二波のほうが被害が大きかった。
インターリスク総研が今年、上場企業を対象に行なった調査で、発生時の対応計画の策定やマスクの備蓄など「新型インフルエンザ対策を実施している」と回答した企業は30%にすぎなかった。
感染地域が広がっていることから、パンデミック(世界的流行)を意味するフェーズ6への移行の可能性もある。国内発生時は企業活動の制限もありうる。企業は早期に、新型インフルエンザ襲来への備えをするべきだろう。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 佐藤寛久)