『ゴジラ-1.0』では、掃海艇をオンボロの小さな木造船として描いていたが、現実もそれに近い部分はある。機雷は鉄製の船体が発する磁気に反応するため、掃海艇の船体は木材または繊維強化プラスチック(FRP)で造られている。海自の掃海艇は、最新の「えのしま」型からFRP製になったが、「うくしま」は木造。この木造船ということが、火災の原因となった事情なのだ。

 一般の人の多くは、船乗りが最も恐れるのは浸水だと思うかもしれないが、実際のところは火災が最も怖い。浸水は穴を塞げば食い止めることができるが、船内で火災が起こると、積み荷や燃料に引火して収拾がつかなくなってしまう。ましてや、可燃物の代表ともいえる木材で造られた船に火がつけばどうなるか、説明は不要だろう。

「うくしま」が爆発を起こすことなく静かに沈んでいった様子を見る限り、火災でダメージを受けた船体の木製部分から徐々に浸水していったことが推察される。

4年前に起きた
「すがしま」の火災事故

 では、「うくしま」の乗組員たちは、船乗りが最も恐れる火災に対して、どのように立ち向かったのだろうか。この問いについては、冒頭で述べた4年前の事故が参考になる。2019年10月、「うくしま」と同じ型の掃海艇「すがしま」が機関室で火災を起こした。

 運輸省の事故調査委員会が公表した事故調査報告書には、事故の様子が生々しく書かれている。

 機関科当直の2人が発電機を起動するために発電機室に入ろうとしたところ、通路に薄い煙が漂っていることに気づいた。2人はメインエンジンの排気管付近の木製甲板が赤く燃えているのを確認すると、当直士官に報告。居室にいた機関長が現場に急行し、消火作業の指揮を開始。
 さらに報告を受けた艇長は「防火部署」を発動、「すがしま」全体での消火活動を指揮した。幸い機関科当直の一人が消化器を噴射し、艦橋がメインエンジンを遠隔で停止したことで、火災は鎮火した――。

 このような記述から、「すがしま」はよく訓練された掃海艇であることが伝わってくる。というのも、海上自衛隊の全ての艦艇は、砲雷科や機関科、飛行科などの艦内編成とは別に、インシデント対応型の「部署」と呼ぶ編成をとり、訓練を徹底しているからだ。