厚生労働省によると、故意に雇調金の支給申請に虚偽の記載をしたり、偽りの証明を行うことは全て不正受給に該当する。
不正受給と認定されると、(1)不正発生日を含む判定基礎期間以降の金額、(2)不正受給額の2割相当額(違約金)、(3)年3分の延滞金の合計額、が返還請求される。さらにペナルティとして不正受給日から5年間、雇用関係助成金は受給できない。
厚労省はコロナ禍の収束に合わせ、不正受給への対応を厳格化してきた。現在、各労働局で調査を実施し、受給した助成金について不正・不適正な場合は自主申告を促している。だが、悪質性が極めて高い場合、法人や代表者を詐欺罪として刑事責任を問うほか、「自主申告ではない不正受給事案については、例外なく事業主名等を公表」すると強い姿勢で臨んでいる。
不正受給が発覚すれば、各都道府県の労働局が社名を公表する。社名のほか、代表者名や所在地、業種、返還を命じた額や不正行為の内容なども掲載される。社名公表を避けるには、労働局による調査の前に自主申告し、迅速に全額を返還することが必要だ。
社名公表は飲食店が最多
不正受給の最高額は49億円
東京商工リサーチの集計では、これまで不正受給で社名を公表された企業は全国で1437社、不正受給総額は465億7502万円に達する。不正受給額の平均は1社で3241万円だ。
コロナ禍が吹き荒れた2021年2月に社名公表の第1号が出た。2021年は年間9社だったが、2022年は218社、2023年は692社と年々右肩上がりの増加をたどる。2024年も10月下旬までに518社が社名を公表され、高止まり状態にある。
これまでに公表された不正受給額の最高額は、人気もんじゃ焼き店をチェーン展開する加納コーポレーション(東京)の49億6797万円。一部の従業員について、事業主都合の休業でなく、単に勤務予定がない日を休業として申請したとして2024年3月に不正受給が公表された(全額返還済み)。これまでの不正受給額とはケタはずれの額で、大きくマスコミでも取り上げられた。
不正受給額の2位は、水戸京成百貨店(茨城)の10億7383万円。従業員が出勤していながら休業と虚偽の申請書類を作成し、不正受給が発覚した。2023年2月の公表時点で全額を返還していたが、その後、茨城県警の捜索が入り、元社長や元総務部長らが詐欺容疑で逮捕される事件に発展。地元を代表する百貨店の不祥事は大きな波紋を呼んだ。
以下、3位は宿泊業のファーストリゾート(株)(千葉、不正受給額7億3798万円)、4位は清掃業の華誠(株)(神奈川、同5億1333万円)、5位は旅行業の(株)ワールド航空サービス(東京、同3億9357万円)と、3億円以上の高額な不正受給額が続く。
このほか、各地で詐欺事件として警察の捜索を受け、逮捕に至るケースも少なくない。
業種別最多は飲食業
起業直後に不正のケースも
不正受給が公表された1437社を東京商工リサーチの企業情報データベースとマッチングし、業種別で分析した。
最多は「飲食業」の162社で、1割以上を占めた。緊急事態宣言下で、休業や営業自粛を要請されるなど、コロナ禍が直撃した業種だが、その分不正申告も多かった。
次いで、「建設業」(139社)、人材派遣や業務請負など「他のサービス業」(109社)、旅行業や美容業などの「生活関連サービス業,娯楽業」(88社)、経営コンサルタント業などの「学術研究,専門・技術サービス業」(72社)が続いた。
直近の売上高が判明した年商別では、年間売上高1億円未満が39.0%、1億円以上5億円未満が41.1%を占め、売上高5億円未満の規模が約8割を占めたのも特徴だ。