赤道の周囲が約4万キロメートルだから、地球半周分の距離にあたる。
その間、甲板部員たちが発見したクジラを調査員や航海士が記録していく。対象は、捕獲するクジラだけではない。見つけたクジラは、捕獲対象以外も種類や群れの頭数、発見の状況などを記す。
クロミンククジラが増えたのに
商業捕鯨は再開ならず
その後、発見したクジラの数を野生動物の個体数調査に用いるライントランセクト法という数式に当てはめて、海域全体の生息数を推測していく。
阿部は漁業としての捕鯨を経験したくて、捕鯨船に乗り込んだ。だが、彼は、結果的に職業人としてのほとんどとなる32年を調査に費やした。
調査捕鯨をどう受け止めているのか。彼はよどみなく答えた。
「我々は、南極海での商業捕鯨再開のために調査を続けてきました。日本の捕鯨は、IWCで責められてモラトリアムで一時的に停止しているだけで、商業捕鯨をやめたわけじゃない。資源量が回復し、数が増えていることさえ証明できれば、商業捕鯨は再開できる。そう信じていたし、実際に我々が調査を通じてクロミンククジラが増えていることを明らかにしたんです。少なくとも調査がはじまって10年くらいは、近いうちに商業捕鯨は再開されるだろうと考えていました」
しかし現場の努力や思いが顧みられることはなかった。