「でも、調査捕鯨になってからは、生態を調べるため、まだ未成熟のクジラも捕獲しなければならなかった。ミンククジラは、成熟すると9メートルくらいになるんですが、5メートルほどの小さなクジラを撃った経験があります。捕獲したあと、虚しさを感じました。なかなか割り切れないものでした」
クジラの年齢、性別、妊娠率などの
データも求められる調査捕鯨
松坂が言うように、昭和の商業捕鯨の目的は食料増産だ。大きなクジラを効率的に捕獲するために、季節や海水温、天候などを考慮し、クジラの群れがたくさんいそうな海域で操業する。
片や調査捕鯨では資源量を把握するために、クジラの年齢や性別、妊娠率などのデータが必要になる。最初に発見したクジラが調査対象の種なら、必ず捕らなければならない決まりだった。商業捕鯨のように成熟したクジラだけを狙うとデータに偏りが出てしまうからだ。
また、調査捕鯨では、無作為に調査コースが決められた。調査海域にクジラが生息するかどうかはわからない。捕獲したクジラ1頭1頭が、あるいは発見できなかった航海の1日1日が、資源量を割り出す基礎データになるのである。
私がかつて同行した調査でいえば、3隻のキャッチャーボートは、7マイルの間隔をあけ、平行に並んで11.5ノット(時速約21キロ)の速度で調査コースをたどる。3ヵ月で約2万キロメートルの距離を航海した。