「行動経済学」に「神経経済学」と、ここ数年、続々と「新しい経済学」の研究が芽生えています。これらの動きを生み出している、経済学や心理学、神経科学、さらには物理学といった研究領域が交わる「知の最前線」についてレポートする連載第2回。
前回に引き続き、大阪大学 社会経済研究所教授・付属行動経済学研究センター長である大竹文雄氏に話を伺います。
「中編」となる今回は「なぜ、人間は不合理な行動をとってしまうのか?」について明らかにし、どうすれば後悔のない、よりよい人生を送れるのか、伺いました。「罰ゲーム」の正しい使い方など、ダイエットに片づけに宿題と、とかく「後回し」にしがちな人は必見です!(聞き手:萱原正嗣)

「経済学」で毎日の行動が変わる?

――人間には「不合理な」側面がある。それが、個人の行動や社会にどういう影響を与えているかを解明するのが、「行動経済学」という学問だというお話を前回伺いました。では、「不合理な」側面を持つ私たち一人ひとりは、どうすれば「合理的に」行動することができるようになるのでしょうか?

「罰ゲーム」の経済学<br />――コミットメント・メカニズムで<br />「不合理な自分」を変える!大竹文雄(おおたけ・ふみお)
大阪大学社会経済研究所教授・付属行動経済学研究センター長
1961年生まれ。京都大学経済学部卒、大阪大学大学院修了。経済学博士。専門は行動経済学、労働経済学。2008年日本学士院賞受賞。主な著書に、サントリー学芸賞受賞『日本の不平等 格差社会の幻想と未来』(日本経済新聞社)、『競争と公平感』(中公新書)など。最新刊に『脳の中の経済学』(共著・ディスカバー携書)。

大竹まずは、正しく「知る」ことが大切です。人間はいつも合理的に行動するわけではないことを知ることです。私たち人間は、特定の状況では「合理性」から外れた行動をとることを知っておくと、あらかじめ対策を打つことができます。対策がとれれば、それを自覚していなかった場合よりも「合理的な」行動をとることができるようになるはずです。

 たとえば、前回紹介した、夏休みの宿題の宿題を後回しにしてしまう「現在バイアス」は、多かれ少なかれほとんどの人が持っています。目先の利益に流されやすいという人間の性質が、宿題の後回しにつながるわけです。それをわかっている人だけが、適切な対策をとることができます。家にいると誘惑に負けてしまうから、毎日図書館や自習室に行って勉強するとか、1日分が終わらないと家を出られないように親に見張ってもらうとか、そういう対策です。

「行動経済学」では、自らの「現在バイアス」という性質を知っていて、その対策をとれる人のことを、「賢明な人」と呼びます。反対に、「現在バイアス」があるにも関わらず、それに気づいていない人のことを「単純な人」と呼びます。「単純な人」は、知らず知らず事後的に後悔してしまうような行動をしてしまうわけです。