芸人の罰ゲーム、その「経済学的な」意味

――「賢明な人」は、具体的にどういう対策をとっているのでしょうか?

大竹 自分の決定を変えられない仕組みをあらかじめつくってしまうことです。「現在バイアス」の例で言えば、ダイエットをすると決めたら家に甘いものを置かないとか、禁酒すると決めたら家にお酒を置かないとか、そういう方法です。

 これを、コミットメント・メカニズムと言います。

 私がお手伝いさせていただいているNHKのEテレの『オイコノミア』という番組では、ピースの又吉さんがナビゲーターをされています。その又吉さんが、あるテレビ番組でダイエットすると公言してしまいました。テレビでしゃべってしまった以上、やらないわけにはいきません。

 約束(コミットメント)を守れなかったら、自分が嫌なことをするという別の約束(コミットメント)をするのもひとつの手です。要するに、罰ゲームを設定することで、やるしかない環境をつくってしまうわけです。

 又吉さんは、やはり某テレビ番組の企画で、フリーキック合戦で負けたら丸刈りということもありました。又吉さんからすると、トレードマークと言えるあの長髪を丸刈りにされたのでは困ってしまいます。それで、勝つために必死に練習されていましたと思います。

――なるほど、罰ゲームの意味も「行動経済学」で説明できるわけですか。

大竹 イェール大学のイアン・エアーズらが立ち上げた「stickK」というサイトは興味深いです。このサイトでは、自分が決めた約束を守れなかったら、予め預けておいたお金を自分の主義主張とは逆の、嫌いな団体に寄付をする、というコミットメントをするという方法でインセンティブを醸成する、ということをしています。たとえば、自分が宣言した約束を守れなかったら、自分が応援しているチームのライバル・チームに寄付をするという形です。サッカーで言うなら、バルセロナのサポーターがレアルに寄付をする、日本の野球に例えるなら、阪神ファンが巨人に寄付をするということです。これは嫌ですよね。だから、そうならないようにがんばるわけです。

 自分の得にならないことをして何になるのと思うかもしれませんが、自分に「現在バイアス」があると知っているからこそ、それを防ぐための対策をとることができます。「賢明な人」だからこそ、コミットメント・メカニズムをうまく活用できるわけです。