国立大学の法人化以降、研究費の配分の中心を競争的資金に移してきたことも、非正規の研究者を増やしてきた要因だ。

 競争的資金は、テーマや成果によって配分が決まる。このため大学に競争や効率化を促すことができ、研究力を向上させられると国は考えた。だが、競争的資金には、3~5年といった短期のプロジェクト型が多い。博士課程を終えた若手研究者の多くが、こうしたプロジェクトごとに雇用されるようになった。

 だが、こうした雇用では、プロジェクトのテーマしか研究できないなど自由度が低い。いくつものプロジェクトを渡り歩くなどして、30代後半になっても任期付きのポストで働く人も増えている。

 若手研究者の不安定雇用については、国大協の永田恭介会長(筑波大学長)も懸念を示している。「国は『選択と集中』政策ばかりを進めすぎた。競争的資金は短期のプロジェクト型が多いため、任期付きのポストが増えて若手の雇用問題が起きた」と指摘する。

教員の不安定雇用をめぐり
問題化した非常勤の雇い止め

 教員の不安定雇用をめぐっては、非常勤の雇い止めも問題になった。

 13年、改正労働契約法が施行され、働く期間が通算5年を超えると、希望すれば有期契約から無期雇用に転換できる「無期転換ルール」が始まった。研究者に関しては、5年では短いとして、継続して研究ができるようにと、無期転換を求めることができる雇用期間を「10年」としている。しかし、一部の大学では、無期に転換するのを避けようと、1年契約などで更新する任期の上限を、「5年まで」とするところもある。

 10年ルールが適用される前に、雇い止めにあう人もいた。東北大学は22年度末で、雇用が通算10年となる有期雇用の研究者や技術者164人のうち84人を「雇い止め」にしたと、朝日新聞は報じている。同大は取材に、「公募の際に労働条件を明示するとともに、それぞれの有期雇用職員に対して、採用時および契約更新のつど労働条件を明示するなど関連法令にのっとり真摯に対応してきた」と答えている。

 無期に転換する前に雇い止めにあい、「不当だ」として大学を相手取り訴訟を起こす例もでている。日本を代表する研究機関の理化学研究所(本部・埼玉県和光市)では、23年春に「10年ルール」で雇い止めにあった研究者や技術職員が97人にのぼったことを、労働組合が明らかにした。

 こうした雇い止めは違法だとして、研究者らが理研に地位確認を求める訴訟を起こした。私立大学でも、語学の講師らが雇い止めにあったとして訴訟を起こすケースが複数あった。

 23年9月に文科省が発表した調査結果では、有期雇用の期間が10年を超えて無期に転換できる対象者のうち、無期雇用契約を結ぶなどして定年まで雇用継続できる人が8割いた。

 一方で、定年退職以外でその後の状況が不明の人や決まっていない人が12%を超えたことが明らかになった。すべてが本人の意に反した雇い止めかは定かでないものの、そういった人も含まれるとみられる。

 任期付きの雇用制度そのものが悪いわけではない。人材の流動性が高まり、競争が生まれ、研究の活性化につながるというメリットはある。

 同じように、流動性を高め競争を促そうと、政府は14年度から国立大学に対して年俸制の導入を促してきた。研究業績や教育内容、社会貢献などの成果が反映される仕組みで、優秀な教員の確保につながったという評価も受けている。