さらには、NHK党の立花孝志氏による議員への脅迫も、調査・報道すべきでしょう。選挙活動と言いながら、反斎藤の中心人物である奥谷謙一議員の自宅前で演説し、「引きこもってないで家から出てこいよ」「これ以上脅して奥谷が自死しても困るので、これくらいにしておく」と大声で怒鳴ったというもので、奥谷氏からは刑事告発されています(立花氏も奥谷氏を提訴すると表明)。

 刑事告発がある上にYouTubeの動画も残っているので、これを突破口に捜査はできるはずです。たとえば、都知事選での「つばさの党」の他候補への演説妨害行動については、検察側は「つばさの党がSNSのアクセス数の増加による増収を期待した」と裁判で指摘しているからです。

飛び出した公選法違反疑惑
地元紙にこそ「真の報道」を期待

 そして、最後に飛び出したのが、広告代理店に費用を支払ってSNS戦略の立案を委ねていたという疑惑です。PR会社「merchu」社長の折田楓氏が、自らnote上で「『#さいとう元知事がんばれ』とするハッシュタグを拡散させるアイデアを出した」という趣旨の発言をしていることが発覚しました。

 斎藤知事の弁護人は、ポスターのデザインなど通常の相談をしただけだと言い訳していますが、折田氏がよほどの嘘つきでない限り、あのような細かいアドバイスの描写や、親密そうな社員たちとの写真が出てくるはずはありません。

 これについては、検察OBである郷原信郎弁護士や若狭勝弁護士も、公職選挙法違反の疑いが濃いとコメントしています。実際、自民党の柿沢未途議員は、昨年4月の江東区長選挙をめぐり、インターネットに木村弥生前江東区長への投票を呼びかける有料広告を掲載させたとことなどにより、公職選挙法違反の罪で懲役2年、執行猶予5年の有罪判決を言い渡されています。

 私は地元紙の神戸新聞に、自主規制をやめて自由な報道を開始することを期待しています。同紙は内橋克人氏(経済ジャーナリスト)など、尊敬できる記者を多数輩出してきた会社で、調査報道の伝統があります。大手メディアはすぐに方向転換はできないでしょうから、地元紙の活躍を期待したいのです。

 これを機に、メディア全体が反省し、公職選挙法の規定をもう一度読み直すべきです。「客観報道」という名の「ことなかれ報道」ではなく、経営陣や上層部と現場の記者たちが真の報道のあり方を話し合ったらどうでしょうか。地元紙が模範となる記事を次々に出し、報道の信頼を回復するためのいい事例を作ってほしいと考えます。

(元週刊文春・月刊文藝春秋編集長 木俣正剛)