3 「不動産対策」は事前準備が10

 3つ目は節税には直結しないものの、「不動産対策」だ。

 亡くなった被相続人には配偶者や子などの相続人が2、3人いるケースが多い。そして、複数の相続人同士が話し合いのうえで遺産を分配することになる。

 国税庁によると、相続財産の内訳は土地と家屋が平均して40~50%を占める。近年では地価上昇により、都心部では財産の大部分が不動産になる例も多いという。

 現金は分割できても不動産は簡単に分割できない。主要財産が分割できなければ大きな問題となる。このため、不動産の相続を引き金にしたトラブルが多発している。

「親子も兄弟姉妹も仲が良いと思っていても、いざ相続になれば、直接の血縁者ではない相続人の夫や妻が口を出してきて揉めるのです。

 先日も依頼者の父親が亡くなった後、母親が実家に住み続けるつもりでいると、突然長男が法定相続を主張してきました。結果的に母親は実家を売らざるを得ない状況に追い込まれ、長女が怒り心頭でした。

 亡くなった被相続人の不動産の行方は、特例の利用や、家が売れない昨今では相続放棄も視野に入れ、事前に決めておくべきです。事前に決められない関係であれば、相続時に必ず揉めます」(相続物件を手掛ける不動産業者)

「特例」とは、親と同居していれば、子供が家を相続する際に土地の評価額を80%減額できる制度のことなどだ。

 また相続では、すべての財産を相続するか(単純相続)、すべての財産を放棄するか(相続放棄)の二択を原則としている。このため、売れない不動産だけを放棄することはできず、事前の対策が必須となる。

 だが、注意すべき点もある。それは不動産の「共有」だ。

「相続する時に、とりあえず子供3人が不動産を『共有』することがあります。ですがその後、誰かが第三者に売ってしまうことも。こうなると、残された2人は、利用にも処分にも困ることになります。

 インターネット上では『共有不動産を買い取ります!』という宣伝があふれていますが、買い叩いて共有者に高く売りつける、または高額の賃料を取るなど、悪徳業者にとってオイシイ案件なのです」(前出の不動産業者)

 揉めれば手間もコストもかかり、精神的負担にもなる。スムーズな相続には不動産対策がカギとなるのかもしれない。

坂田拓也(さかた・たくや)
大分市出身。大学在学中に1992年「サンパウロ新聞」(サンパウロ)、卒業後1997年から2004年「財界展望」編集記者、2008年から2018年まで「週刊文春」記者、現在はフリーランスのライターとしてマネー、経済分野を中心に幅広く執筆を行う。著書に『国税OBだけが知っている失敗しない相続』(文春新書)、取材・構成『日本人の給料』(宝島社新書)などがある。