似た傾向にあるのが、ともに空港アクセスを担う南海と京急だ。どちらも定期は予測値を下回るが、航空需要の急激な回復で定期外利用は10%以上の上振れだ。

 京王の定期利用は当初、予測値と実績値が乖離したが、最終的に予測に近い水準まで戻っており、全体で1.3%増の誤差に収まっている。また名鉄も予測値に近い形で推移しており、2024年度は予測値の3.7%増にとどまる見込みだ。

 これまで上限運賃改定を申請した6社の中で、名鉄は最も遅い2023年5月、京王は次に遅い同年3月に申請している。東急とは1年以上の差があるため、より精緻な予測ができたということもあるのだろう。

 改定日から5年後の年度末に行われる見直しは、最短の東急でも4年後のことである。結果的に予測から上振れしたことで「取りすぎだった」との批判が出ることも考えられるが、今後の物価、人件費の変動は予測困難であり、何とも言えない。

 それでも運賃改定により、コロナ禍以降、緊縮一辺倒だった財政事情に光明が差したのは間違いない。各社は要員数や営業費を削減し、減収を補ってきたが、このような「非常事態」が何年も続くはずがない。

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 冒頭に記した通り、大手私鉄の過半はコロナ前の営業利益を超えており、既に従来の運輸事業の収益性を前提としない「ニューノーマル」が定常化しているが、運輸業が依然としてキャッシュと人流を生み出す経営の軸であることは間違いない。

 しかし昨今、SNSで大手私鉄の休日出勤、長時間残業など劣悪な労働環境への批判が目立つ。個々のエピソードの真偽は分からないが、鉄道・バスともにコロナ前から人手不足、過重労働が指摘されてきた業界だけに、現場がますます疲弊しているであろうことは想像に難くない。

 1990年代前半まで、運賃改定は数年おきに行われることが珍しくなかったが、2000年代以降の低成長デフレ環境下で、消費税率改定を除けばほとんど運賃改定を行ってこなかったため、今や鉄道事業者内にも「値上げ時代」を知っている世代は少ない。

 物価・人件費が上昇局面に入った今、かつてほどではないにせよ、5年程度のスパンでの運賃見直しは必要な状況になってくる。その時、値上げで得た原資を、安全性、利便性向上とともに、安定かつ質の高い輸送サービスを維持するための労働環境改善に充てるというメッセージが明確になれば、利用者・社会からの理解も高まるのではないだろうか。