南海、京王、京急、名鉄は
上限運賃改定で収支を改善

 注目したいのは、2023年10月に南海、京王、京急、2024年3月に名鉄が行った上限運賃改定(値上げ)の影響だ。なお4社に先立ち、東急が2023年3月、近鉄が同年4月に運賃値上げを実施しているが、近鉄の定期利用に、値上げ前先買い需要の反動が見られる以外は影響が小さいため省く。

 4社の改定率(値上げ率)は、南海が平均10%、京王が平均13.3%、京急が平均10.8%、名鉄が平均10%であり、やや上振れしているが、概ね想定通りに平均運賃が上がっていると言える。この結果、図2に示したように、名鉄、京王、京急、南海の運輸セグメントは大きく増益し、鉄道事業の収支は改善された。

 日本経済新聞(電子版)が11月19日、京阪電鉄が今年度中にも上限運賃改定申請を行う方針と報じているように、今後も値上げに踏み切る事業者は出てきそうだが、コロナ禍で特例的に認められる運賃改定には難しい問題もある。

 鉄道の運賃制度は総括原価方式のもと、運賃・料金収入などの「総収入」と、人件費や経費、減価償却費、諸税からなる「営業費」に、支払い利息や配当金など「事業報酬」を加えた「総括原価」が釣り合うように決定する。

 一般的には、人件費・物価などの上昇による総括原価の増加、沿線人口減少による運賃収入の減少などの要因で、向こう3カ年間の平均総収入が総括原価を下回ることが想定される場合、総括原価を超えない範囲で運賃改定(値上げ)が認められる。

 しかし、コロナ禍による急激な輸送需要の変化において、3年先までの見通しを立てるのは困難だ。とはいえ出血を止めずに様子をうかがう余裕はない。そこで今回の運賃改定は、改定日から5年後の年度末に検証し、実態に応じて上限運賃を調整する条件付きで認可された。

運賃改定の申請における
需要予測の難しさ

 先陣を切った東急は2022年1月に運賃改定を申請したが、申請時点では2020年度の実績、2021年度、2022年度の推計値をもとに、2023~2025年度の収入と原価を算出し、運賃改定が認められた。

 ただ申請時の需要予測(輸送人員)に対して実績値はかなり上振れしており、2024年度の最新見通しでは、通勤定期が予測値の109%、通学定期が100%、定期外が105%となっている(通勤と通学は上半期時点の比率で算出)。

 この結果、2024年度の旅客運輸収入は、予測値が約1390億円のところ、最新見通しでは約108億円増の約1498億円に達する見込みだ。前述のように、通勤定期利用が思いの外、回復したというのも「誤算」だっただろう。

 悩みは他社も同様だが、それぞれ「乖離」は異なっており、需要予測の難しさがうかがえる。近鉄は定期外利用の回復が予想より早かったが、すぐに頭打ちになり、2024年度は予測値を下回る公算だ。一方、定期利用は予測を大きく上回っている。