市場環境は常に変化している。顧客が欲しいと感じるものは、すでに大きく変化しているかもしれない。自社の売りたいものが複合機でも、顧客は「電子化により、働き方を変えたい」と思っているかもしれない。そうした顧客に複合機の商談を持ちかけても、顧客にとって意味はない。
自社が工作機械を売りたいと考えていても、顧客の問題意識は「ライン全体の最適化」にあり、「デジタルでのラインシミュレーションなどライン全体をいかに最適化できるか」ということに頭を悩ませているかもしれない。そうした顧客に工作機械の営業をかけても聞いてもらえないだろう。
これまでの営業プロセス管理ではなく、ズームを引いてより広角にすることで市場全体を俯瞰し、その変化を確認し、逆にズームをアップにしてより詳細に顧客の変化を議論する必要があるのだ。
営業プロセスは顧客に十分にものが行き渡っていない時代には適していたのだが、ある程度ものが行き渡り、ものよりもサービスや体験が重要視され、顧客自身、何が必要なのかがよくわからなくなっている今の時代には適さないのである。
ものが行き渡っていなかった時代と異なり、商品が行き渡っている現在では、顧客のニーズを創出することがより一層重要になってくる。
プロセスの再構築で
企業が重視すべき「顧客体験」
顧客の視点でプロセスを再構築しなければいけなくなっているのだ。その際に重視すべきなのが「顧客体験」(カスタマーエクスペリエンス/CX)である。
顧客体験とは、顧客が商品・サービスに興味を持ち購入し、利用し続けるまでの一連の体験(あるいは企業と顧客の接点)を指す。
企業は、商品そのものではなく「顧客にどのような体験をしてほしいか」を中心に考え、「顧客はどのような状態を理想としているのか」を理解できないと、顧客体験を高めることはできない。
なお、営業プロセス管理を続け顧客視点が弱いままでいると、結局「自社の営業担当が接点を持てた顧客しかリーチできない」という事態が続くことになる。どんなにすごい営業担当者でも、顧客との接点はごくごく一部で、多くの人はその存在を知らない。見込みとなる顧客層にも知られていないものだ。
営業プロセスで管理し続ける限り、入り口の段階でごく絞った顧客の議論にとどまり、対象とすべき顧客の多くを理解できないままである。