ガス業界で今年、24年ぶりの異変が起きた。業界2位の大阪ガスが同1位の東京ガスを時価総額で一時上回ったのだ。特集『株価、序列、人事で明暗! 半期決算「勝ち組&負け組」【2024秋】』の#8では、投資家に“刺さった”要因と今後を財務指標の観点から分析した。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)
売上高規模で3分の2の大阪ガス
時価総額では一時東京ガスを逆転
今春、ガス業界に異変が起きた。業界1位の東京ガスを、同2位の大阪ガスが時価総額で24年ぶりに上回ったのである。
売上高規模で大ガスは東ガスの3分の2程度。従前、時価総額でも明確な差となって表れていた。
逆転の要因とみられているのが、株主還元策だ。大ガスは3月、新中期経営計画で、これまでの配当性向30%以上から、株主資本配当率(DOE)3.0%、累進配当に変更した。
配当性向(配当総額÷純利益)で目標設定した場合、短期的な利益変動に配当総額が左右されかねない。一方DOE(配当総額÷株主資本)では、株主資本は堅調に推移する傾向のため、株主還元の予見可能性が高まったのだ。
対して、東ガスはこの数年間で、総還元性向〈(年間配当総額+自己株式取得額)÷純利益〉の目安を6割から4割程度へと段階的に減らしていた。その理由を脱炭素投資に多額の費用がかかるためなどと説明。「成長投資することで企業価値を上げ、還元とさせていただけないだろうか」(笹山晋一社長CEO〈最高経営責任者〉)と株主に理解を求めてきた。
実際、東ガスの2023年度の総還元性向〈{(23年度の年間配当総額)+(24年度の自己株式取得額)}÷23年度純利益〉は今年9月まで40.3%。対して大ガスは同じ計算式に基づけば40.7%。わずかではあるが東ガスを上回っていた。
さて、この時価総額における両社のバトル。株主還元以外のイベントもあり、今春以降は両社抜きつ抜かれつで推移したが、10月末に東ガスが“逆襲”の一手を打ち、再逆転を決定的にした。
次ページからは、財務指標の観点からガス業界にこの間起きていたこと、そして今後の「株主還元の上振れ」の可能性も分析する。東京ガス、大阪ガス、東邦ガス。3者3様のBS(バランスシート)マネジメントの全貌は?