私は妻と一緒に福山雅治さんのライブに行く予定にしていました。2人とも久しぶりのデートを楽しみにしていたのですが、私に急な仕事が入ってしまいチケットを大将に譲ることになりました。

「お父さんは行けなくなってしまったから、お母さんと行っておいで」と伝えました。

 大将は私の代わりに母親と大阪城ホールへと出かけていきました。

 帰ってきて、ライブはどうだったかと大将に尋ねると、「福山さん、すごく気持ち良さそうだった」と答えたのです。

 普通の子どもなら、「カッコよかった」とか「素敵な歌声だった」とか「感動した」とか、生のステージを観て自分がどう感じたかを話すと思います。私はこの何気ない言葉が気になりました。

 大将は、福山雅治さん側の目線でライブを見渡していたようなのです。「大将は将来ステージに立つ仕事につくのではないか」ふとそういう思いが私の頭をよぎりました。

 私も昔は俳優のアルバイトをしたり、テレビやラジオのMCをしてきたので、芸能界はそれほど遠い存在だという意識はありません。むしろ、私のほうが大将より「目立ちたがり屋」ですから、息子がそういう道へ進みたいのなら、しっかり応援したいという気持ちが芽生えました。さらに私が大将の立場だったら、その時は「僕もこんなに大勢の前で歌いたいなあ」と答えていただろうと想像しました。「血は水よりも濃い」ということでしょうか。

子どもたちの成長のためならば
100万円の液晶テレビも安い買い物

「この子はもしかすると、演者側の人間になるんじゃないか」

 そう思ってから、私は大将に生の演劇を見せるようにしました。「ふるさときゃらばん」という、面白くてわかりやすい演劇には大将と2人で何度となく足を運びました。吉本新喜劇にも行きました。もちろん、映画館にもよく連れて行きました。

 ちょうどその時、家の近くに大きなシネコンができたこともあり、私は積極的に大将を誘いました。洋画も邦画も、2本続けて観るくらい、映画に熱中させました。家族総出で、たくさんの映画を観ました。そのなかでも、「スタンド・バイ・ミー」「フォレスト・ガンプ」は兄弟みんな大好きで、DVDも買って何度も繰り返し観ていたと思います。

 自宅には、ソニーの42型液晶テレビを買いました。当時の液晶テレビはまだ高くて100万円もしました。しかし、3人の子どもの成長のためなら「安い買い物」だと信じて疑いませんでした。子どもたちは友人を集めて、「ハムナプトラ」などをキャーキャー言いながら喜んで観ていました。