客観的な評価基準が無いゆえに
ファンの主観が強い意味を持つ
全国の女子中高生メンバーの選考をもとにしたAMFの「JC・JK流行語大賞2021」(2021年11月29日)では、推し活に関するキーワードが多数ランクインしている[図表7-11]。
まず、ヒト部門1位の「INI」(アイエヌアイ)は、韓国発祥のサバイバルオーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN SEASON2」から誕生した日本の男性アイドルグループである。全国各地から集まった101人の練習生のなかから国民投票(視聴者投票)で勝ち残った11人のメンバーによって結成された。
トレーニングやミッションなど、デビューまでの過程を放送することで、視聴者は自身の「推しメン」(推しているメンバー)を見つけていく。ミッションが終わるごとに選考のふるいにかけられるため、視聴者は自身の推しメンが脱落しないように投票する。
アイドル全盛期であった1970~1980年代は、アイドルたちはデビュー前にトレーニングやレッスンを積み、メディアに出るときにはアイドルとしてほぼ完成されていたケースが多かった。売れるためには、事務所の大きさやマネジメント能力が必要であったし、ステージから降りてもアイドルはいわば偶像として「ステージ裏の姿」をみせてはいけない存在であった。
しかし昨今は、アイドルの性質が変化していると筆者は考える。
従来のアイドルは外見や歌唱力といった比較的可視化(客観視)された基準でファンを獲得していたが、昨今は、素人から発掘され、成長していく過程までも1つのコンテンツとしてファンに提供されることが多くなった。
トレーニング過程やそのなかでみられる人間模様をファンにみせる(みられてしまう)ことで、アイドル自身の人間性もファンの評価基準となったのである。
人間性の良し悪しは、客観的な基準がないため、ファンの主観で判断されることになる。自分が考えるそのアイドルのよさを他人に推奨したいというファン心理から、「推す」という言葉は浸透していったと筆者は考える。
「PRODUCE 101 JAPAN SEASON2」において、ファンは、自身の推しが選考に残り、テレビに出続けられるかを自分のことのように一喜一憂しながら見守り、投票という形で支えた。参加者の大半は素人で、視聴者との心理的距離が近い。