昔から熱狂的なアイドルファンというのは存在したし、「推す」こともしてきた。オタク=ダサいという色眼鏡で見られていた時代もあった。それがなぜ今、世の中に浸透してきたのか、現代消費文化論の専門家が解説する。※本稿は、廣瀬 涼『あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか:Z世代を読み解く』(金融財政事情研究会)の一部を抜粋・編集したものです。
応援する手段の選択肢が増え
誰もが容易に推せる時代に
「ヒト消費」は、今後、我々の消費行動のなかに定着していくと筆者は考える。
誤解されないように付け加えると、これは「モノを所有することに、人々が価値を見出さなくなった」ことを意味するのではない。
時代の流れとともに、消費者が満たしたいと思う欲求を満たす手段は変化していった。我々は昔からヒトを消費することにエンターテインメント性を見出してきたが(スポーツ観戦や芸能人のゴシップ、ドキュメンタリーは昔からの人気コンテンツであった)、市場環境の変化により、「ヒト」がより消費者が消費したいと思う対象へと昇華していったのである。
そして、昨今の「ヒト消費」における応援消費に焦点を当てれば、「推す」という行為が大衆化し、誰もが「推し」の対象を持つことが一般的になっている。
従前は路上ライブをしているアーティストのギターケースに小銭を入れることくらいしか、彼らを支援することはできなかった。
また、一時期主流になったアイドル商法では、同じCDを何枚も購入して、時にはそれを廃棄するといった、一般的な消費行動からは理解されがたい非効率的な方法でしか支援ができず、「オタク」と呼ばれる消費者は奇異の目でみられることもあった。
しかし今では、インスタグラムなどのSNSやPococha(ポコチャ)などのライブ配信アプリを通じて応援する手段(インフラ)が整い、数多くの配信が行われるようになった。そうしたものを通じて、ファンは「推し」に対して直接経済的支援を行うことができるようになった。
新しい舞台や、CDの製作、写真集の発売などをクラウドファンディングによって支援することも一般的となっている。また、Fantia(ファンティア)のように、誰でも手軽にファンクラブを開設し、イラスト、小説、コスプレ写真、音楽、映像などを手軽に投稿できるプラットフォームも誕生している(2022年12月時点でのファンティアの累計ファンクラブ数は45万件以上に達し、累計ユーザー登録者数は900万人を突破している)。
このように、支援する手段に選択肢があり、かつそういった手段で他人を応援することに対して消費者の抵抗感がなくなった(カジュアルにやりとりできるようになった)ことが、昨今の応援消費の大きな特徴といえる。