ケーシャヴの村には、トイレがある家はありません。ジャヤーの実家には、トイレがあり、トイレがない生活は考えることができないほど当たり前となっているのです。

 それに対して、ケーシャヴの村では、女性たちは集団で毎朝、日の出前に村の外まで行って野外排せつするのです。

 そして、それが当たり前となっており、ケーシャヴは、ジャヤーがなぜトイレがないと大騒ぎをするのか理解することができません。

半数以上の世帯にトイレがない!
野外排せつにひそむ危険性

 トイレをテーマに物語ができてしまうほど、トイレはインドでは深刻な社会問題なのです。

 それを裏づけるデータがあります。

 ユニセフとWHOが2015年に行った調査で、インドは世界一の野外排せつ国だったのです。全世界で野外排せつしている人の6割がインド人で、約5億6425万人にものぼります。2001年のインドの国勢調査では、トイレをもたない世帯63.6%、2011年の調査でも53.1%でした。

 そこで、2014年、モディ首相は、「スワッチ・バーラト」という政策を打ち出しました。これは、「クリーン・インディア」(きれいなインド)という意味で、インドの衛生環境を向上させるのが目的です。

 インドは、他国から非衛生的とか汚いというイメージをもたれていますが、これに対して、衛生環境を改善し、国民の健康を守ろうというものです。モディ首相は、そのためには、まずトイレをつくることが重要だとしたのです。

 そして、2019年には野外排せつゼロ宣言をしました(これには、いろいろ異論があり、ゼロの定義(?)にはかなり疑問があります)。

 野外排せつには多くの問題があります。まず、井戸や川の近くで糞尿をすると水が汚染され、その水を利用する人の健康を害するということです。女性は、レイプの危険性があります。

 しかし、トイレは設置すればいいというものではありません。トイレやタンクを清掃するなど管理を維持しなければならないのです。