農村には下水道がないため、糞尿を溜めるタンクが必要になりますが、いっぱいになったら処理したり清掃したりしないといけません。

 トイレは不浄とされていますので、本来ならばトイレ清掃のカーストがする仕事です。今までトイレをタダでしていた人たちにとって、いくら補助金が出ても、維持費を負担してトイレを設置するくらいなら、野外でいいではないかということになります。

 ならば、自分で清掃すればいいのでは、と思いますが、清掃カーストと見下してきた人たちと同じことをしなければならないということで、かなり抵抗感があります。

 映画『ガンジー』でもガンディーの妻が、トイレ掃除を拒否するシーンがあります。それに対して、ガンディーは、人は平等であるからみんながトイレ掃除をしなければならないと説明します。

書影『インド沼 映画でわかる超大国のリアル』『インド沼 映画でわかる超大国のリアル』(インターナショナル新書、集英社インターナショナル)
宮崎智絵 著

 また、トイレ設置に反対する人の言い分の1つは、『Toilet-Ek Prem Katha』の父親のセリフ「けがれをもたらすトイレを家の敷地につくるなどとんでもない」に代表されます。

 排せつ物はけがれているという意識から、トイレを家内どころか家の敷地内につくることにすら拒否反応があるのです。

 さらに、トイレは必要ではないという人もいます。その多くは男性ですが、女性の中にも必要性を感じない人たちもいます。野外で何が悪いのか、と疑問に思う人たちは、トイレよりも優先すべきことがあるし、トイレにお金をかける意味がわからないのです。

 今まで野外で何の不自由もなかったため、トイレよりも借金問題や道路の整備、電気のほうが必要だとする人たちもいます。その人たちにとってはトイレは生活必需品ではないのです。

 トイレとその他のどちらを優先するかは、価値観の違いです。