例えば、とあるところに1億円の財産を持っているお父さんがいました。このままだと将来相続税がかかってきてしまうなと思い、娘さんに生前贈与していこうと考えます。娘さんに300万円の生前贈与を行いました。この場合、110万円を超えていますので、贈与税を払わなければいけません。300万に対する贈与税は19万円。これをしっかり税務署に対して納めていきます。

 次の年、もともと1億円あった財産は9700万円に減っています。この状態で300万円の贈与をもう一度娘さんに行い、娘さんもしっかり贈与税を払っていきます。同じことを次の年も娘さんに贈与して納めてきました。このように順調に贈与していたのですが、このお父さん、次の年になくなってしまいます。この時、手元にあった財産はいくらかというと、9100万円が残っていました。ここに対して相続税がかかっていくのかなと思いきや、ここで出てくるのが生前贈与の3年内加算のルールです。

 具体的には、亡くなってしまったこの日を基点として、遡ること1年、2年、そして3年。この3年以内に行われている贈与で渡した財産については、亡くなった時の手元の財産に加算します。つまり、9100万足すことの900万円、つまり1億円に対して相続税が課税されていく。これが3年内加算のルールというものです。

二重課税は大丈夫?

 1億円に相続税がかかってしまうんだったら、「先に払った贈与税19万、19万、19万、これ何だったの? 二重課税じゃないの?」と思われる方多いと思います。ここは二重課税が起きないように、1億円から相続税を計算した後に、すでに払っている贈与税は贈与税額控除といった形で、二重で税金が払われないように配慮されています。つまり、贈与して損してしまったということにはなりませんが、この亡くなる前3年以内の贈与については、税金計算上は相続税の対象にされてしまう。これが3年内加算のルールです。

 ちなみに、この3年ルールは年間110万以内の贈与でも適用されます。贈与税の申告をしているかどうかは関係ありませんので、その点もご注意ください。

2024年からの新ルール

 そしてこの3年ルールが2024年1月1日からの贈与について7年内加算へ変更されることになりました。この2024年から7年内加算と聞くと、多くの方が「2024年から7年遡るってことは2017年まで遡るってことですか?」と誤解される方多いのですが、そういうことではありません。2024年1月1日から新たに行う贈与については7年内加算の対象になっていきます。ですので、2023年12月31日までに行った贈与についてはあくまで3年のルールのままですので、その点はご安心ください。

 例えば、2024年1月1日に贈与をした人が、2027年7月1日に亡くなったとします。これまでの3年ルールであれば、持ち戻しの対象になるのは、2024年7月1日以降に行われた贈与です。しかし、税制改正によって、持ち戻し期間が延長されますので、2024年1月1日に行われた贈与も持ち戻しの対象にされてしまうのです。この人の場合は、結果として持ち戻し期間は、3年6か月ということになります。

 では、2024年1月1日に贈与した方が、2031年7月1日に亡くなったとします。この場合、亡くなった日から7年遡ると、2024年7月1日になります。そのため、2024年1月1日に行った贈与は、持ち戻しの対象外となります。この人の場合は、持ち戻し期間は結果として7年間ということになりますね。繰り返しになりますが、あくまで2024年1月1日以降に行う生前贈与が7年ルールの対象になります。

 年末年始が近づいてきました。親族で顔を合わせる機会がある人も多いかと思います。相続や贈与のことで家族と話し合う際、ぜひ参考にしてください。

(本原稿は『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』の一部抜粋・追加加筆を行ったものです)