もしパワハラに遭ったら、あなたならどうしますか? 誰かに相談したくても、「証拠が必要なのか」「すぐに対応してもらえるのだろうか」などと不安になってしまうかもしれません。そうならないためにも、パワハラに関する正しい知識を持っておくことが必要です。今回は、『それ、パワハラですよ?』の著者であり、パワハラ加害者・被害者から多数の相談に乗ってきた弁護士の梅澤康二さんと、本書で漫画を担当した漫画家の若林杏樹さん、元エリート幹部自衛官でひどいパワハラに苦しんだ経験を持つ会社員インフルエンサーのわびさんの3人で座談会を行いました。その中で話された、それぞれが受けたパワハラの体験談や、実際にパワハラを受けた場合の対処法などについてご紹介します。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

パワハラの証拠を残す「最強ツール」は? 知っておきたい、パワハラに遭った場合の正しい対処法Photo: Adobe Stock

パワハラにその場ですぐ反応するのは難しい

――わびさんは、自衛隊時代にひどいパワハラに遭った経験があるそうですね。

わび:はい、本書に出てくるような事例は一通り体験しました。例えば、私を叱責するメールを、最初にやりとりしていたメンバー以上の人をCCに入れて送ってきたり、休みを削らないと絶対に間に合わない締め切りを設定したりなども日常茶飯事でした。

パワハラの証拠を残す「最強ツール」は? 知っておきたい、パワハラに遭った場合の正しい対処法わび
Xフォロワー18万人超えの会社員
日常の気づきを語ったつぶやきが10万超えいいね!を連発するなど、ネットニュースでも話題の人物。自衛官時代の壮絶なパワハラ体験と人生を生き抜く知恵をまとめた『この世を生き抜く最強の技術』(ダイヤモンド社)は3万部突破のベストセラーに。最新作『人生から逃げない戦い方』(扶桑社)も話題/イラスト:死後くん

――今振り返って「ああしておけば良かった」と思うことはありますか?

わび:「その一線を越えたら撃ちますよ」という気概を持っておくべきでした。私の場合、嫌なことをされても愛想笑いですませていたのですが、それが良くなかった。最初にパワハラだと感じたときに撃退しておくべきでした。ただそのためには、こちらもしっかりとした「パワハラの知識」を持っておく必要があると思います。

例えば、本当に仕事で必要なことを命じられたのに、「それ、パワハラですよ」などと言うと、社内で“厄介な人”扱いされかねませんから。

若林杏樹(以下、若林): 私も、以前アルバイトしていた飲食店で、店長に理不尽なことで怒鳴られたことがあります。

すごく驚きましたし、不満げな表情はしていたものの、その場は特に何も言い返さずやり過ごしました。ただ、心では「なんだよ! こんな店、いつでも辞めてやる!」と思っていましたけど……。

パワハラの証拠を残す「最強ツール」は? 知っておきたい、パワハラに遭った場合の正しい対処法若林杏樹(わかばやし・あんじゅ)
漫画家
大河内薫氏との共著『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』(サンクチュアリ出版)は発行部数29万部突破のベストセラーに。「年収1300万円の婚活女子」としてネットニュースで話題になるなど、インフルエンサーとしても活躍中

パワハラと感じたら、ロジカルに説明を

――パワハラだと感じたときに、反射的に言い返せるかは、その人の知識や性格にもよると感じました。パワハラに遭いやすい性格などはあるのでしょうか?

梅澤康二(以下、梅澤): ハラスメントに関しては、「遭いやすい」より「深刻化しやすい」という言い方が適切かもしれません。

一番深刻化しやすいのは、加害者本人よかれと思っての言動が、実はハラスメントになっているケースですね。被害者も「それに応えるのが仕事だ」と思って対応して、そのうち我慢に限界がきて爆発してしまうと深刻化しやすい。

そういうわけで、被害者側は理不尽な扱いを受けたときに「なぜ理不尽なのか」を説明できるようにするのが大事です。“理不尽”をロジックで考えられるようになるといいでしょう。

私自身も、独立前は大きな法律事務所で働いていたのですが、パートナーから明らかに理不尽なことを言われたことがあったんです。法的にも言っていることがおかしいと思ったので「こういう理由でこのような対応をしているのですが、何がおかしいんですか?」と言い返したら、それ以上何も言われなかった経験があります。

だから、理不尽だと思ったら、その理由を自分で消化して、説明できるようにする。もちろん加害者側も、本当に必要なことであれば「業務において適正な指示だ」とロジカルに説明できることが、パワハラを防ぐ上では大事ですね。

パワハラの証拠を残す「最強ツール」は? 知っておきたい、パワハラに遭った場合の正しい対処法梅澤康二(うめざわ・こうじ)
弁護士法人プラム綜合法律事務所代表、弁護士
東京大学を卒業後、大手弁護士事務所アンダーソン・毛利・友常法律事務所に入所。同事務所を退所後、弁護士法人プラム綜合法律事務所を設立。人事労務分野での経験は15年以上。パワハラについてのセミナー、紛争等の対応も行う

――ロジカル対ロジカルで話し合うことが必要なのですね。

梅澤:ハラスメントは評価なので、「何がハラスメントなのか」が非常に大事です。加害者も被害者も、「パワハラだ!」「違う!」と言い合っていても感覚の話でしかない。

そうではなく、「こんなことをしましたよね?」「それには正当な理由があります」「でも、その理由はおかしいですよね」などと議論しなければなりません。

だから、私は企業側にハラスメントの予防について相談された時には、上司側にハラスメントトレーニングをするだけでなく、必ず従業員側にもするよう伝えます。どちらにとっても知識は大事ですから。