パワハラの証拠を残す最強のツールは?
――実際にパワハラに遭ったときの対処法を教えてください。
梅澤:まずは、相手に線引きを伝えることが非常に大事です。わびさんがおっしゃったように、「これ以上入ってきたら、自分も反撃しますよ」と意思表示することで、相手がそれ以上しなくなることが期待できます。
相手のタチが悪いとよりひどくなる可能性もありますが……。最近はみなさん、パワハラと言われるリスクはわかっているので、常識があればしないと思います。
また、最終的に戦う場合には、「証拠」が絶対に必要になります。口頭で「言った・言わない」「やった・やってない」の話は、裁判ではほぼ意味がありません。
ですから、「こういうことをされているから嫌です」と伝えたという事実を、記録として残すことが極めて重要です。
そのための証拠としては、「メール」が最強です。日時と会話の当事者と、その内容が全部可視化されるツールは他にありませんから。メール一択ですね。
――具体的にはどんなメールを送ればいいのですか?
梅澤:日付が残るので「先ほどこんな話をされた、こういう言い方をされましたが、自分はこのように受け止めていて、非常に不安です」とか「申し訳ないけれど、不快感があります。自分も気をつけるので、今後そういう言い方はやめてもらえませんか」といったメールを1本打っておけば、まずは線引きができます。
また、あとで問題になったときに、証拠としてそのメールを出すこともできる。そういう意味では、メールで反論しておくのが一番ですし、「いつどこで、どういう状況で、何をされた。それについてこう考えているからやめてほしい」といった書き方をしておくと、証拠としては非常に強いです。
意外と証拠としては使いにくい「録音」
――スマホの普及により、録音する人もいるようですが、証拠としてはいかがですか?
梅澤:音声の場合、話の流れや状況があるので、その一部を切り取っても全然意味がないんです。
もちろん、「死ね」などの一発アウトな言葉が録音されていれば別ですが、そういうことはあまりありません。だから、正しく事実確認をするために録音を使おうと思うと、全部聞かないといけなくなる。
例えば、3~4時間も録音したものが1ヵ月分あった場合、どのようにして裁判所に提出するのかが問題になります。だから、証拠として使いづらいんです。
それに、職場で録音をしていること自体が問題行為と言える部分もあって。そんなことをされたら、相手との信頼関係の構築などできませんよね。
そうなると、いくらハラスメントを訴えても「あなたがしていることも大概ですよね」と言われかねません。
若林:録音は効果的な手段だと思っていたので驚きました。確かにSNSでも、録音の一部やLINEのスクリーンショットの一部が出回って、前後がわからないのに騒がれていることがよくありますよね。それと同じなんですね。勉強になりました。
知識を身につけて、パワハラに正しく対処を
――部下の立場の方へのメッセージをお願いします。
若林:今のお話を伺って、データが残るという意味でも、法律的な効果としても「メールでやり取りする」のは大事だと思いました。
ちょうど漫画家の後輩から、仕事のやり取りは何ですればいいのか相談されていたので、メールが最強だと伝えようと思います。
みなさんにもぜひ、この本を読んで知識をつけて、どのように自分を守るかを考えていただきたいですね。
わび:私もここまでメールが重視されるという認識はありませんでした。これからは、そういったメールがあったら、きちんと保存しておこうと思います。
こういった知識をどんどん蓄えることで、自分の身を守ることにつながると思うので、ぜひこの本は個人で常備していただきたいですね。
梅澤:パワハラを受けた側の立場であれば、パワハラを嫌悪する気持ちは当然だと思います。ただ「正しく嫌悪して正しく恐怖すること」が大事です。
何が何だかよくわからない中でハラスメントに相対してしまうと、必要以上に恐怖心や嫌悪感が増幅されてしまう可能性が高い。まずは「自分がどういった状況に置かれていて、それはどのように整理できるか」を正しく理解・把握していただきたいと思います。
そのためにも、わびさんがおっしゃるように、最低限の知識を有しておくのが必要だと思います。
また、被害を受けた方々は精神的に追いつめられることにより、どんどん思考がネガティブになっていく傾向が強いです。そうなると、全部の事象を悪意的に捉えがちになってしまう。
ですから、自分でコントロールできないことは、あまり気にしすぎないことも大事です。知識と心持ちの2つで自分の身を守っていってくださいね。