「ピッチャーではもう一人、生井(惇己・現日立製作所)もそうです。監督3年目の時のエースですが、2年生の秋の県大会準決勝で鎌倉学園に1-0で完封勝ちして関東大会出場を決めました。その翌日が東海大相模との決勝戦だったんですが、ここで連投を経験させておきたい、というのと、相手が(強豪の)相模さんだから、生井が先発しないと試合にならないかな……という思いもあった。本人は『ちょっと腰が重いけど、行けます』というので投げさせたら、試合後に疲労骨折していました」

 森林の声から、いつもの明るさが消えた。

自分の見る目や能力は
「全然自信がないです」

「木澤と生井、2人のピッチャーを壊しかけた……。自分にはピッチャーを投げさせるかどうかという、一番大事なところで見る目がない。しかも、見る目もないくせに悩みもしない。木澤の時に後悔したはずなのに、生井でも同じことをやった。なんかもう、本当に自分は駄目だな、本当にごめんなさい、みたいな思いがあるんです」

 とはいえ、高校野球の指導者にとって状態が万全ではないエースを起用すべきか否かは、極めて難しい判断だ。この点について悩んだことのない指揮官は、過去にいないだろう。

「それと似ていたのが、(優勝した)2023年夏の甲子園の準決勝・土浦日大戦で(2年生エースの)小宅(雅己)に完封させた時です。試合前には、『6回か、長くても7回まで。決勝の仙台育英戦のために継投で行くよ』と伝えていました。でも、スコアが2-0で代えにくい展開が続いて、小宅に聞くと『ちょっとつりかけてる』と。『じゃあ、もうちょっとおかしくなったらすぐ言えよ』みたいな話をしながら、結局完封させてしまった。小宅は試合後に、『僕が完封するしかないと思っていました』なんて言っていましたけど。(試合後の勝利監督)インタビューで『小宅、ごめん』と言ったのはそういう理由です。優勝したからいいとか、そういう問題じゃなくて、やっぱりあそこで完投させては駄目だなと。だから、自分の見る目とか能力は全然自信がないですね。過信なんかできない」

 優勝監督とは思えないほど、謙虚に自らの足元を見つめる姿があった。

「だから、指導したら良くなるかもしれないけど、ならないかもしれない。うまくいくかもしれないけど、潰すかもしれない、みたいな両方のケースが絶対にあるだろうなと。考えて指導すれば良くなるとか、指導すればするほど良くなる、という見方には『そんなに甘くないだろう』というのが自分の体験からあるんです」