日産 消滅危機#23ホンハイで電気自動車(EV)事業の責任者(CSO。最高戦略責任者)を務めている関潤氏。日産の再建請負人として古巣へ戻ることはあるのか? Photo:Bloomberg/gettyimages

台湾の電子機器受託製造サービス大手、鴻海(ホンハイ)精密工業が、ホンダや経済産業省などに対して「ホンダ、日産自動車、三菱自動車、ホンハイによる4社提携」を正式に打診していることがダイヤモンド編集部の調べで分かった。今月破談になったばかりの“世紀の経営統合”が、外資企業の仲介によって舞い戻ってくるという異例の展開を見せている。当初、ホンハイは個社での日産買収を検討していたが一転、方針を大幅に転換し交渉に臨んでいるようだ。特集『日産 消滅危機』の#23では、ホンハイが提示した4社協業の中身を明らかにする。その構想の実現は日産経営陣の一掃が前提となっており、後任社長として日産出身のホンハイ幹部、関潤氏の名前が取り沙汰されている。(ダイヤモンド編集部編集長 浅島亮子)

ホンダと日産“破談”の翌日に
ホンハイが経産省に「新プラン」を提案

 やはり、台湾の電子機器受託製造サービス大手、鴻海(ホンハイ)精密工業は日産自動車を諦めていなかった。

 2月14日、東京都内で経済産業省幹部とホンハイ幹部の関潤氏が面会していた。ホンダと日産自動車が経営統合協議の打ち切りを表明した翌日のことである。

 ホンハイで電気自動車(EV)事業の責任者(CSO。最高戦略責任者)を務めている関氏は、日産ナンバー3の副COO(最高執行責任者)だった人物。ホンハイの劉揚偉(ヤング・リウ)会長からその豊富な経験を買われて、日産提携プロジェクトの先導役を担っているようだ。

 昨年から複数回にわたって、ホンハイは経産省との接触の機会を重ねてきた。経済安全保障上の理由から、外資企業であるホンハイが日産を買収したり、日産に資本参加したりする場合のハードルは日本企業に比べて高くなる(ただし、過去に外為法に基づく中止命令が発動されたのは、2008年の英ファンドによる電力卸Jパワー株買い増し事案のみ)。

 また、経営の一線を退いた創業者の郭台銘(テリー・ゴウ)氏は親中派とされてきたことから、台湾の顔をした中国籍企業とみなされることも警戒していた。

 外資批判と中国リスクーー。とにかくホンハイは日本側を必要以上に刺激しないように、用意周到にプロジェクトを進めてきたようだった。

 今回ホンハイが経産省に提案したのは、「ホンダ、日産、三菱自動車、ホンハイによる4社提携」だったとされる。また同様のタイミングで、「ホンハイはホンダ、三菱、日産のメインバンクであるみずほ銀行などに接触を試みているようだ」(ホンダ関係者)とみられる。当初、ホンハイは個社での日産買収を検討していたが一転、日本の自動車メーカー3社を巻き込んだ大協業プランへ変更し、関係各所との交渉に臨んでいるようだ。

 次ページでは、関係者の証言を元に、ベールに包まれている「4社提携」構想の中身と、ホンダが再び交渉のテーブルに着く条件を明らかにする。

 その構想の実現は、内田誠社長以下、日産経営陣の一掃が前提となっており、後任社長候補として関氏の名前が取り沙汰されている。一方、日産取締役会には内田社長留任を模索する勢力もあり、日産の先行きには不透明感が漂っている。