オーダーメイドのミッションを与え、
気概を刺激するのが上司の役目

鈴木博毅(すずき・ひろき)
1972年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒。ビジネス戦略、組織論、マーケティングコンサルタント。MPS Consulting代表。日本的組織論の名著『失敗の本質』をわかりやすく現代ビジネスマン向けにエッセンス化した『「超」入門 失敗の本質』はベストセラーになる。その他の著書に『「超」入門 学問のすすめ』(ダイヤモンド社)、『ガンダムが教えてくれたこと』『シャアに学ぶ逆境に克つ仕事術』(共に日本実業出版社)など。

鈴木:齋藤先生はいろいろな書籍で「ミッション」という言葉をよく使われますが、『学問のすすめ』にも「ミッション」があるとお考えですか?

齋藤:僕が『学問のすすめ』で一番感じるのは、実は「学問をしろ」ということではなくて、「独立の気概を持て」ということだと思うんですよね。つまり「独立をする」ということが「ミッション」なんです。

 タイトルが有名だし、冒頭が平等を説く文章ですから、みなさんその印象が強いと思うんですけど、全編に渡って主張しているのは、国が独立するためには、まず個人が独立しなきゃいけない、ということ。人に頼ってお上のいうことばかりを聞いているような気風ではだめなんだ、その気風から変えていこうと。つまり、1人1人が独立するというミッションを国民に与えた本だと思うんですよね。

鈴木:現代社会に目を向けると、今の若者はミッションを見つけられず、それゆえ精神的にも安定できない面がある気がします。また逆に、もっと上の世代、たとえば会社で言えば上司が部下にミッションを与えられていないという実情もあるのかな、と。

齋藤:その通りですね。どの仕事に就いても辞めたくなっちゃう人って、会社から期待されていない感じがするんだと思います。仮にその人ならではのミッションが与えられていれば、多少給料がよくなくても精神的には充実しているはずだから。つまり、下の世代にやる気が出るようなミッションをどう個別に与えられるか、というのが、上司としての一番大事な能力ですよね。

鈴木:特にミッションのない完全な能力主義になってしまうと、できる人とできない人が分断される恐れがあります。その場合、上司が決めたルールというのが通用する期間はいいのですが、それが終わると、もともと仕事や会社の人間関係から部下の心が離れているので、さらに組織がバラバラになってしまう。

齋藤:やっぱりミッションってオーダーメイドであってほしいですよね。既製品ではなく、その人用のミッションという感じで、「君にはこれを頼むよ」と。その点でいうと、福沢は『学問のすすめ』の中で「大きな共有ビジョンに向かって、個々のミッションがつながっている」というグランドデザインを示したと思うんです。

 つまり、個々人のミッションが目標の達成には不可欠なんだ、と。さらに言うと、「1人1人が独立しろ」というような、若者の心に響く言葉を福沢は持っていた。それが今の大人にちょっと欠けている気がするんですよね。若者の気概が刺激されていないんです。「君じゃなくても別にいいんだよ」「代わりはいくらでもいるんだ」って言われると、誰だってがっかりしますから。

鈴木:たとえ仕事場の環境は変わらなくても、ミッションや若者の気概を刺激する言葉を与えられる上司やリーダーがいれば、それだけ若い人が情熱とやる気を持って仕事に臨めるわけですね。