16年有村架純、18年広瀬すず
全国区に馴染みのない俳優を「お披露目」

 だが、実際、『紅白』をお披露目の場にした先例もあるのだ。有村架純の場合は、『ひよっこ』(17年)の前年16年、広瀬すずは『なつぞら』(19年)の前年18年に来年の朝ドラのヒロインとして『紅白』の司会に選ばれた。まだ全国区に馴染みのない俳優を暮れの紅白で一気に全国区に親近感を持たせようという作戦であろう。

 だからこそ、多少、おぼつかない面があってもむしろ初々しいと済まされたのかもしれない。有村は「はじめての紅白の司会で緊張しているけどどうすっぺ」と役の出身地の茨城弁を披露して、素朴さをアピール。当人は兵庫県出身にもかかわらず、茨城県代表歌手のようなアプローチを行った。そうやって応援者を増やし、『ひよっこ』は無事好評で、放送の年も引き続き司会をやった。がんばったご褒美的に華々しい場を与えられたのであろう。

 お披露目としての司会だからほんわかしていてもゆるされるとしたら、お披露目ではなかった綾瀬はるかは……と疑問がわく。しかも彼女は危うく見えるにもかかわらず、13年、15年、19年と3度司会をやっているのだ。逆に彼女のほんわかムードは現場では好評だったのかもしれない。

 綾瀬は極めてクレバーな人なので、爪を隠して穏便に物事を進めることを知っているのではないかとも推察できる。つまり、紅組司会のほのぼの感は演出だったのかもしれない。

 ほのぼの司会に関して、近年の紅白には変化が見られる。ほわんとしていて多少頼りない司会よりもしっかり者の司会にシフトしてきているようなのだ。

 20年の二階堂ふみ、21年の川口春奈、23年の浜辺美波は粛々とソツなく進行していた。まるで優秀な秘書のような雰囲気で。

 20年はコロナ禍がはじまった年で『紅白』もはじめての無観客で行われた。その状況ではほのぼのムードを漂わせている場合でもなかったであろう。あるいは、ジェンダー平等の気運が高まり、その観点から、女性は和ませ役やアシスタント役というような発想から離れようとしているとも考えられる。というのは女性がしっかりしてきた一方で、男性司会がおとぼけムードを漂わせはじめたからだ。