私はイギリス人の父と日本人の母のもとに生まれ、日本の公立小学校に通いました。アメリカの大学を卒業してニューヨークで働いていたころ「よく働く」「時間を守る」「責任感が強い」「チームワークが上手」だとよく言われました。「いや、普通の日本人なんだけど?」と思いつつ、かなり得をしていた感覚があります。友人に日本の小学校の話をすると「え? 掃除するの?」と驚かれる。「もしかして世界が認める日本人の性質の素地は小学校にあるのでは?」と思ったんです。撮影OKな学校に出合うまで30校を回りました。
基本的に小学校の風景は私が通っていた25年前と変わっていなかったです。ただ給食を残してもよくなっているし、一人一人を尊重する多様性の教育がなされている。いっぽうで運動会や行事など一生懸命に何かを乗り越える経験は減っています。自分にとってはその達成感や強さがいまの自分を作っていると思っているのですが。
取材を通じてあらためて日直や当番など子どもに責任を与え、子どもが活躍する場をいくつも提供する日本の教育のありかたはすごいと感じています。大人がやったほうが楽ですから。それが海外の人々に衝撃を与えているのでしょう。
欧米ではまず隣の子と違うことを発言し、個性を出すことを学びます。日本では集団の中で自分の役割を見つけ、みんなと協力し合うことを学ぶ。教育の入り方が真逆なんです。「個」と「集団」のバランスは難しく日本ではそれが同調圧力に変わったりもしますが、いまの欧米社会の分断の状況をみると、日本の「まずはみんなで話し合い」という合意形成の練習は悪くないのでは?と思います。そして日本人は自分たちのよさに気づいていない。自信を持ってほしいな、という思いも込めました。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2024年12月23日号
※AERA dot.より転載