実は、急激な社会の変化を引き起こすテクノロジーの進化は、過去にも例があった。1990年代中盤、バブル経済の崩壊により閉塞感が社会を覆っていた時期、インターネットの登場が日本を含む世界を一変させた。
当時、多くの人々が熱中して読んだのが、ニコラス・ネグロポンテの著書『ビーイング・デジタル』である。この本は、デジタル技術がわれわれの生活をどのように変えるのかを予測し、新しい時代の可能性に目を開かせるきっかけとなった。
「ビーイング・デジタル」が予見した未来へ
音楽業界を変えたApple
この本で提唱されたのは、やはり同様に「デジタル・コンバージェンス」という概念であった。この概念は、通信、コンピューター、コンテンツといった異なる分野がデジタル技術の進化によって一体化し、新たな可能性を生み出すことを指す。
例えば、かつては独立していた通信(電話やテレビ)、コンピューティング(パソコン)、そしてエンターテインメント(音楽や映画)が、デジタル技術を基盤に統合されることで、相互に補完し合う関係になる。
その結果、かつてはテレビやラジオが専用の電波やケーブルを通じて配信されていたが、デジタル化によって、インターネット経由での配信が可能になった。例えば、YouTubeのような動画共有サービスや、Netflixのようなストリーミングサービスがこれに該当する。
デバイスも変わった。スマートフォンは、電話機、カメラ、音楽プレーヤー、コンピューターといった異なる機能を一つに統合した。このような融合は、ユーザーエクスペリエンス(顧客体験)を一変させたのである。
デジタル・コンバージェンスは、これまで異なる領域だった企業や産業を直接的な競争相手に変えることがある。例えば、AppleがiTunesを通じて音楽業界に参入し、Spotifyのようなストリーミングサービスが音楽の流通形態を完全に変えてしまった。
そして、最大の変化として、情報の流通と消費の仕方が変わった。デジタル技術によって誰でも情報を発信し、共有できる「情報の民主化」が起こり、デジタルプラットフォームが個人の嗜好に合わせて情報を提供する「パーソナライズ(個別化)」が起こり、時間や場所にとらわれず、必要な情報にアクセスできる「リアルタイム性」が生まれた。
これらは、産業だけでなく、教育、医療、政治といった社会全体に波及する変革をもたらすと予見されたが、本当にすべてが大きく変わってしまったのである。