シニカルな解説者が
組織の決定を誤らせる

 これら4つのうち、一般的に変革の妨げとして問題視されがちなのは、4つ目のタイプ(現行ビジネスモデルの保護に固執する人々)だ。しかし、実は、大変革期の初期の段階でより厄介なのは、2つ目のタイプ(シニカルな解説者)である。

 このタイプの人々は、昔からその技術領域について深い知見を持っている点では優れている。しかし、だからこそ、新たに急成長している技術や市場に対して極度に懐疑的な態度を取る傾向がある。

 この姿勢は、新しいチャンスを見逃す原因となるだけでなく、さらに大きな問題を引き起こす。それは、こうした人々が組織内で「その分野の権威」として扱われている場合、その過去の価値観に基づいた、新技術に対して極度に懐疑的な意見が、組織全体の正式な見解とされてしまうことである。その結果、彼らの偏った見解が組織の意思決定を誤らせる要因となり得る。

 例えば、最近の例として挙げられるのが、「AIなんて結局使えない」という否定的なコメントを述べていた技術分野の責任者たちの存在である。たしかに、少し前までは、AIは使えない説が有力だったからなのだが、最新技術も学ばず、そのポテンシャルを測定する能力がないにもかかわらず、過去の一般的な見解をうのみにしてAI導入の議論を阻害し、組織が変化に乗り遅れる要因をつくった。

 このように、社内で影響力のある人が、過去の知識と経験に依存しすぎることが、新しい技術や市場の進展を阻む要因となるケースは少なくない。「タイプ2」になり得る可能性のある人は、自分の見解や発言が少なくとも時代遅れの価値観や技術評価に基づいていないか、真にポテンシャルを把握しているか、などに注意する必要があるだろう。

 これからの社会では、さまざまな技術が融合し、指数関数的な進化を遂げることで、インターネットの時代を超えるような大変革と熱狂の時代が到来する。

 はっきり言って、この連載でこれまで書いてきたような、会社での小さな出世や些細な縄張り争いなど、もはやどうでも良いことになるだろう。

 どうせなら、読者の皆さんには、この新しいトレンドの波に熱狂し、自ら新たな価値を生み出す側になってもらいたいと思う。もし、それが難しいなら、新たな価値を創造する会社やプロジェクトの一員としてそのダイナミックな流れに飛び込み、一緒に踊ってみるのがいいだろう。

 この時代を楽しみ、変革の一部となることで、未来に向けた可能性を最大限に広げていくほうが人生は楽しい。私自身もまた、これまでの知見を活かして、先頭を走ることは無理でも、この大きな流れに乗り遅れないでついていこうと考えている。

(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)