「人手不足」倒産が深刻化する、もっともな理由

 2023年の人口動態統計によると、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は1.20で過去最低を更新した。出生数や婚姻数も戦後最少だった。少子化、高齢化、人口減少の顕在化もあり、わが国の人手不足は深刻化している。

 日本商工会議所と東京商工会議所が実施した『人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査』(24年9月発表)から事態の深刻さは確認できる。全国47都道府県の2392社を対象に実施したアンケート結果によると、「人手は不足している」との回答が63.0%に上った。うち65.5%は、廃業のリスクが高まるなど事業継続に支障が出る恐れがあると回答した。

 実際に、廃業するケースも増えている。帝国データバンクの調査によると、24年の人手不足倒産件数は342件だった。同社が調査を開始した13年以降の過去最多を2年連続で更新した。21年は111件、22年は140件、23年は260件の人手不足倒産が発生したという。

 業種別では、建設業の人手不足倒産が99件(前年から8件増)で最多。物流業は46件(同7件増)だった。2分野で、全体の42.4%を占める。他の業種では、飲食業(16件)など労働集約的な業種で倒産が増えている。飲食業の倒産増の一因として、インバウンド需要が急増した影響もあるだろう。海外観光客が増加する一方で、人手不足から需要を取り込めず、事業継続に行き詰まった事業者が増えたと想定される。

 人手不足への主な対応策として、大手企業を中心に賃上げの重要性が高まっている。賃上げができないと、従業員が転職してしまう傾向が目立っているようだ。例えば小売り大手のイオンは、パートの時給を7%上げる調整に入ったと報じられた。イオンのパート従業員数は約42万人に上り、人件費の増加額は約400億円に達する可能性がある。

 こうした賃上げの原資を捻出するため、早期退職を実施する大手企業も増えている。業績は黒字でも、早期退職を実施する企業も多い。積極的な賃上げによってデジタル分野など専門性の高いプロ人材を確保し、1人当たりの付加価値創出額を増やすことが狙いだ。