政府は人材のマッチング政策を積極化せよ
人手不足は一見すると逆風であるものの、これを追い風にして労働市場の改革が進む可能性はありそうだ。25年は賃上げも引き続き、焦点となる。
大企業の中には、新卒学生の初任給を大幅に引き上げ、若年層の人員確保を目指すところが増えている。あるいは役職定年後に実力ある人材の雇用を延長する企業も増加傾向だ。
他方、AI(人工知能)などソフトウエア関連に長けた人材を高賃金で採用し、組織改革などを進めようとする企業もある。新卒一括採用、年功序列、終身雇用といったわが国の雇用慣行は崩れ始めている。そうした変化の波に乗って、新卒の段階からITスタートアップや海外企業へ就職したり、起業したりする人も増えている。
より高条件を狙って自己研さんに励む人が増えることは、企業にとっても好ましいことだ。企業側も、従業員に学び直しの機会を提供する意義は高めるべきだろう。双方に良い循環が起きれば、新しい構想を実現し、高付加価値のモノやサービスの創出につながる個人や企業は増えるだろう。
こうした流れこそ、わが国経済にとって必要なことだ。経済成長には、新しい需要の創出が欠かせない。イノベーションとは、これまでにはなかったモノ、生産プロセス、素材、マーケティング手法、組織の改編を目指すことをいう。政策の側面から取り組むべきことも多い。
2000年代のドイツでは、政府が解雇規制を緩和した。それに併せて、当時のシュレーダー政権は、失業者に学び直しと職業紹介の機会を提供した。就職をあっせんされた人には、失業保険の給付を減らすなどして就業意欲を刺激した。労働市場におけるマッチング促進政策こそ、1990年代に「欧州の病人」と呼ばれたドイツ経済の回復に重要だった。
「失われた30年」という言葉で表現されることが多いわが国経済も、令和時代に人手不足倒産に直面し、人材の重要性を改めて見直す段階であることは言うまでもない。たとえ人口が減少しても、働く人のリスキリングや就業意欲向上を刺激することで、高付加価値の商品を生み出せれば経済成長は可能だ。政府が人材のマッチング政策を実行することは、労働市場の改革の促進、わが国経済の回復に重要な役割を果たすはずだ。