ファーストクラスのチケットを
手渡されて大激怒!

 日本国内でいくつかの仕事をこなしたゲイツは、伊丹空港から韓国・ソウルへと移動することになった。その際、手渡されたチケットが「ファーストクラス」だったことに激怒したのだ。世界的企業のトップが、ファーストクラスの席を用意されて激怒するとは驚きだが、その理由にはもっと驚かされる。なんと、「価格が高すぎる」「会社のカネを無駄なことに使うな」というものだったというのだ。

 実際には、自動的にアップグレードされてしまったチケットだったようで、ゲイツの流儀をよく知る古川氏は極めて穏やかに事情を説明。ゲイツは自分が早合点で怒鳴ったことを理解し、古川氏に謝罪。もらったチケットで無事機上の人となった。

 ここにゲイツの哲学を垣間見ることができる。一つは会社の資金に対するゲイツの考え方だ。何にせよ、無駄遣いはしない。プライベートジェットを使わざるを得ない立場になってからも、ゲイツは自腹を切っていたのだというから筋金入りだ。

 もう一つは、「世界的企業のトップなら、当然ファーストクラスに乗るだろう」という思い込みを許さないことだ。慣習や惰性に唯々諾々と従うのではなく、極めて合理的に考えた結果、「体がそれほど大きくない自分には、ファーストクラスの席は必要ない。どの席に乗ったとしても、到着時間は同じ」との結論に至ったからこそ、無駄遣いにもなる座席の種類にこだわったのであろう。

 常識で考えれば、「企業のトップはファーストクラスに乗るべきだ」と、実際に飛行機に乗る企業幹部も、チケットを用意する社員側も思ってしまいがちだ。だが大事なことは惰性に従うのではなく、「なぜそうするのか」「合理的な理由があるのか」「単なる慣習にすぎないのならば、ルールの方を変えるべきではないか」と考えることだ。

 こうした発想力が、ゲイツ流の哲学を生んだのだろう。そうであるからこそ、チケットがファーストクラスになった理由の説明を受けて合理性があると納得し、機上の人となったに違いない。

合理的理由があるなら
受け入れて従う柔軟性もある

 また、単に「ファーストクラスには乗らないと決めている」というルールに固執していたわけではないことも、このエピソードからは読み取れる。仮にファーストクラスには乗らない、というマイルールに固執するだけであれば、無理にでも古川氏に座席の種類を変えさせていただろう。

 ところが実際には、自身の哲学と同時に、ファーストクラスになった合理的理由があるならば、それを受け入れて従う柔軟性も、ゲイツは持ち合わせていたのである。

 裏を返せば、ビル・ゲイツにとって単にルールに従うだけの人間は認めない、いい仕事ができない人物である、ということではないだろうか。さらに言い換えれば、仕事を楽しむという前向きな創造的発想、そして思い込みやルールそのものから捉え直すルールメイキングの発想に基づいてこそ、真に良い仕事ができるのだ、と。

 ゲイツのそうした姿勢が垣間見えるエピソードがもう一つある。