
世界シェアトップの化学材料を複数持つデクセリアルズ。前身はソニーグループで半導体デバイスの材料などを手掛けてきたソニーケミカルで、本社は栃木県下野市に置く。ニッチ市場で高シェアを持つユニークな企業の急成長を導いてきたのが、2019年から社長を務める新家由久氏だ。株価はトランプ関税ショックの影響で、過去1年の最高値から4割下落しているが、新家氏は「今の株価は割安だ」と強気だ。特集『化学サバイバル!』の#17では、新家氏を直撃。同社が進める事業ポートフォリオ改革の中身に加え、大手化学メーカーが低PBR(株価純資産倍率)にあえぐ中で、同社が3倍前後の高評価を市場から得ている理由、次の成長領域などを明かしてもらった。(ダイヤモンド編集部 金山隆一)
ソニーからMBOで独立直後に株価低迷
苦境から脱した未来図戦略とは
――PBR(株価純資産倍率)は大手化学メーカーで0.5~0.6倍に低迷する一方で、デクセリアルズは約3倍です。なぜそこまで差があるのでしょうか。
EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前営業利益=本業で現金を稼ぐ指標)を含め、稼ぐ力が高くROE(株主資本利益率)も20%(編集部注:大手化学は5~10%)を超えています。化学セクターに分類されていますが、アセットは非常に軽く、そこから生み出す製品の付加価値が高い。それに伴う結果だと思います。
――源流はソニーケミカルです。ソニーグループからのスピンオフ後にどんな会社として成長してきましたか。
2012年にソニーからMBO(経営陣による買収)で独立し、15年に東証1部に上場しました。実はそこから3年間はかなり苦しい時期があり、上場して最初の中期経営計画は目標数字を達成できず、当時の株価は3分割前で600円(現在の200円位)、PBRでは0.7倍程度でした。19年に社長に就任し、当時抱えていた全ての事業の再評価を実施し、構造改革を進めました。われわれが強い製品や技術に経営資源を集中し、先読みした技術ロードマップに乗って開発を進めた製品を投入すると、稼ぐ力が上がってきたのです。
――強い製品、技術とは具体的に何ですか。
1つは、スマートフォンなどのディスプレーが液晶パネルから有機ELにシフトする中で、なくてはならない技術を先読みして開発をしてきたこと。もう1つはさまざまなセンサーの高度化に向けて、最終顧客と3年先を見越した開発を進め、カメラモジュールを含めて進化に合わせた製品を充ててきたことです。加えて、自動車も車載のディスプレーの多様化によってさまざまなセンサーが組み込まれる未来を先読みして製品開発に取り組んできました。
われわれの前身はソニーケミカルです。ソニーの最終製品が強い時代にどういうものを世の中に届けたいか、構想段階から議論に参加して、デバイスや材料で何が提供できるかを考えて製品を開発してきました。世の中の変化に一番近いレイヤーは消費者に一番近いところにある最終製品。彼らとエンゲージすることで変化に敏感になる。それを違和感なくやってきた歴史があります。
例えば、デジタルカメラが世の中に受け入れられるときにコンセプト段階からどのようなデバイスが必要か、材料面を含めたオールソニーのチームを作って開発に参画していました。ソニーケミカルは12年に創業50年を迎えましたが、私は01年から20年近く働いていました。最終的なターゲットを設定した上で研究開発を進めていくやり方はそこで培われたと思います。
――世界シェアでトップの製品が3つありますね。
インタビューの中で、新家氏は、まず未来の理想の姿を決めて、そこから逆算してやるべきことを考える「バックキャスト」という方法で、将来を“予見”して製品開発を進めていくとし、「競合がある製品は作らない」と断じる。次ページでは、新家氏が、世界シェアが高い製品を複数抱えることができた理由を解説。そして、それらに続く次世代の製品戦略や、焦点を当てている成長領域についても語ってもらった。さらに、新家氏は生産拠点の主力を国内に置く理由やM&A(企業の合併・買収)への考え方も明かした。