キンドル到来で、
出版界が揺れている

 先週木曜日(10月22日)朝、「キンドル」が届きました。発表後間もなく予約を入れておいたため、たぶん第1便なのだとは思いますが、出版界のいたるところで「届いた」という声が聞こえてきましたので、かなりの数が届けられたのではないかと思います。

 さらに翌日には、アマゾンから「20ドル返金します」というメールが届きました。大量の注文が寄せられたため、279ドルから259ドルに値下げし、購入済みの顧客には20ドル返金するというのです。アメリカ以外の市場における電子書籍リーダーのデファクトスタンダードを狙ったアマゾンの戦略は、今のところ上々の滑り出しというところでしょうか。

 もっとも「キンドル」は日本市場での電子書籍リーダー第1号ではありません。「キンドル」と同じく電子ペーパーを表示デバイスとして使用したソニーの「リブリエ」がありましたし、それ以外にも古くは8㎝CD-ROMを配布媒体としたソニーの「電子ブック」、FDを配布媒体としたNECの「デジタルブック」、ICカードを配布媒体とした京セラの「リファロ」、辞典類をインストールしたカシオやシャープ等の電子辞書、シャープ「ザウルス」等をターゲットとした電子書籍の配信などがあり、携帯電話、「任天堂DS」、ソニー「PSP」なども電子書籍表示端末として利用されてきました。

 これらの中で、電子辞書は一定の市場を獲得し、また携帯電話でのコミック配信事業も数百億円規模のマーケットを生み出してきましたが、ほかの端末やサービスはおよそ成功したとはいえない状況でした。モノとしての魅力がなかった、時期尚早、コンテンツ不足など成功しなかった理由はそれぞれいくつも挙げることができますが、原因究明をすることは本稿の目的ではありません。

 ここで着目したいのは、電子書籍が紙の本の代替品たりうるかどうか、というところです。つまり電子書籍が広まることが単純な市場の拡大ではなく、電子書籍への置き換えによる紙の市場の縮小を想定しなければならないものであるのかどうか、ということなのです。

 さらに言い換えれば、出版界は電子書籍の新たな市場を獲得できるかもしれない一方で、必然的に既存の出版物市場(の一部)を損なうことになりうるが、それにもかかわらず電子書籍を推進するとすれば、どのようなことに留意していかなければならないのか、という問題なのです。

 その点で検討しなければならないのは、電子辞書であり、電子書籍リーダー「キンドル」「リブリエ」です。電子辞書についての論考はまた別の機会に譲ることにして、ここでは電子書籍リーダーに話をしぼることにしましょう。