やってもやっても仕事が終わらない、前に進まない――。そんな状況に共感するビジネスパーソンは多いはずだ。事実、コロナ禍以降、私たちは一層仕事に圧迫されている。次々に押し寄せるオンライン会議やメール・チャットの返信、その隙間時間に日々のToDo処理をするのが精いっぱいで、「本当に大切なこと」に時間を割けない。そんな状況を変える一冊として全米で話題を呼び、多くの著名メディアでベストセラー、2024年年間ベストを受賞したのが『SLOW 仕事の減らし方』だ。これからの時代に求められる「知的労働者の働き方」の新基準とは? 今回は、本書の邦訳版の刊行を記念して、その一部を抜粋して紹介する。

「仕事を減らす」という選択で、すべてうまくいく
本書の執筆のためにおこなった読者調査でも、希望のある結果が出ている。多忙な日々を送っていた知的労働者の人たちが、仕事の削減に成功しただけでなく、仕事を減らしたおかげで働きやすくなり、以前よりも成果が上がったと報告しているのだ。
たとえばコーチングの仕事をしているローラは、仕事を削減するために、提供するサービスを少数の主要なものだけに絞り込んだ。
「おかげで頭がすっきりして、クライアントとの絆が深まり、仕事の質も向上しました」と彼女は言う。
仕事がうまく回りはじめると、少ない労働時間で以前と同じだけの収入が得られるようになった。当初はワークライフバランスのために収入の低下もやむをえないと考えていたのだが、結果的に少ない時間で稼げるようになったのはうれしい驚きだった。
法学部教授のジェイソンも、仕事を削減してよかったと語っている。彼は専門家証人として依頼された重要な案件に集中するため、それまで猛烈なペースで発表していた論文執筆を一時中断することにした。
「じっくりと集中して事件に向き合い、不利な証言や反対尋問に対する準備を充分にしたおかげで、これまでのキャリアで最高の仕事ができました」と彼は言う。「学会でも今回のケースについて予備的発表をいくつかおこないましたが、これほど熱心な反響が来たのは初めてです」
仕事を削減したおかげで、キャリアが飛躍的に前進したのだ。
仕事を減らしても、意外と問題は起こらない
教員をしているオーレリアは、小中学校の教員にありがちな過重労働にうんざりしていた。そこでひそかに、一線を引くルールを採用することにした。
「無報酬の仕事はしない、自分の明確な職務以外の仕事には手を出さない」
これを実行してみたところ、まずいことは何ひとつ起こらなかった。今までずっと耐えてきた理不尽な作業は、絶対に必要なわけではなかったのだ。
ある匿名のコンサルタントは、勤め先の会社が「非請求時間」の制度を取り入れたおかげでキャリアが好転したと語ってくれた。これは顧客のために働く請求可能時間のほかに、各人が自分の好きな仕事に取り組むための時間を確保する制度だ。
「おかげで働き方が一変しました」と彼は言う。「新しい分野を学ぶ余裕ができて、視野が広がりました。仕事の楽しさをひさしぶりに思いだした気がします」
土木系管理職のニックは、週60時間労働のきつい現場を離れ、週30時間勤務の会社に転職した。以前よりもずっと職務が明確で、仕事量にも無理がない。
「労働時間は半分になったのに、仕事のアウトプットは前職とほぼ変わらないんです」と、ニックは少し驚いた様子で語ってくれた。
「少ない仕事に集中できているからだと思います」
(本稿は、『SLOW 仕事の減らし方~「本当に大切なこと」に頭を使うための3つのヒント』(カル・ニューポート著、高橋璃子訳)の内容を一部抜粋・編集したものです)