保険大激変 損保の構造的課題が生保にも飛び火!#4Photo by Akio Fujita

一連の損害保険業界の不祥事を経て開催された有識者会議と金融審議会保険ワーキンググループの報告書が出そろい、保険業法の改正と監督指針などの改正が2025年度に行われることとなった。保険会社や乗り合い代理店にとっては大きく業務内容が変わるが、その内容は多岐にわたるため対応に苦慮しているのが実情だ。特集『保険大激変』の#4では、保険業法の改正を中心に全体像を提示する。(ダイヤモンド編集部編集委員 藤田章夫)

保険業法改正と監督指針などの改正
スケジュールは未定も対応は急務

 1月30日夕刻、金融庁からの通知に保険業界に衝撃が走った。翌31日に公表されるはずの監督指針改正案に関するパブリックコメントが急きょ、延期になったからだ。

「前代未聞のことだ」――。複数の保険会社幹部が口々に言うほど、珍しい事態が起こっている。今国会で改正を目指す保険業法改正案を自民党の部会に提示したすぐ後に、金融庁は同時並行で一部の監督指針の改正を進めようとしていたが、法改正が成立する前に監督指針を改正するのは具合が悪いのではないかとの判断があったもようで、急きょ金融庁上層部がパブコメの延期を決めたとみられる。

 保険業法や監督指針などが改正されるのは、旧ビッグモーターによる保険金の不正請求問題や大手損害保険会社4社によるカルテル事案、個人情報の漏えいなどが同時多発的に発生したためだ。そこで、2024年3月から有識者会議が開かれ、6月25日に報告書が公表された。

 さらに、内容によっては保険業法の改正が必要となるため、同年9月から金融審議会の損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ(WG)が開催され、12月25日に報告書が示されている。両報告書では多数の問題提起がなされたが、一部は生命保険業界にも当てはまることから、保険業界を挙げての抜本的なルールの見直しを迫られることとなった。

 もっとも、これらの報告書では大まかな方向性が決まっただけで、保険商品の比較推奨販売に関する一部を除き、大半のルールが監督指針などに委ねられることとなった。

 また、有識者会議報告書には「直ちに実現可能なものについては速やかに実施に向けた作業が進められること」と記されている。そのため、法改正案については国会に提出しつつ、法改正に関わらない監督指針の改正を同時並行で進めようとしたが、冒頭の通り出ばなをくじかれた格好だ。

 当初の予定では、25年中に3回に分けて監督指針の改正案をパブコメにかけ、随時ルールを改正していく予定だったが、1回目のパブコメが延期になったことで目算が狂った。春ごろを予定している2回目のパブコメに合算するか、保険業法施行規則の改定が前提のため夏ごろを予定している比較推奨販売の3回目のパブコメにまとめるのか、現時点では見通しが立っていない状況だ。

 とはいえ、信頼が失墜した保険業界には悠長に構えている余裕はない。有識者会議と金融審議会の保険WGの二つの報告書に加え、24年11月1日から施行された改正金融サービス提供法に規定された「顧客の最善の利益を勘案した誠実公正義務」を踏まえた上で、新たな体制を整えていく必要がある。

 そこで、次ページ以降では、二つの報告書に書かれた問題点や提言を網羅した一覧表を示すとともに、保険業法改正案の中身を中心に主要な論点について解説していこう。