三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損害保険の大手損保会社2社などを傘下に持つ、MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス。2015年に英国で巨額買収に踏み切ったが、その後長らく赤字に苦しんできた。また、旧ビッグモーター問題以降、損保各社は構造的出直しを迫られており、膨大な政策株の売却を余儀なくされている。長期連載『経営の中枢 CFOに聞く!』の本稿では、20年にCFO(最高財務責任者)に就任した樋口哲司氏に、海外事業や政策株の売却益の使途について話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部編集委員 藤田章夫)
企業価値の向上がCFOの最大の責務
海外事業、火災保険、政策株が課題
――2020年にCFO(最高財務責任者)に就任されて以降、最も注力されてきたことは何でしょうか。
やはり企業価値を上げていくことが最も重要です。ステークホルダーによって企業価値にはさまざまな捉え方がありますが、CFOに就任して以降、特に株価を意識してきました。というのも、株価はわれわれの戦略や手がけた施策に対する評価を色濃く反映する部分が大きいからです。
むろん、外部要因もありますが、20年当時と比べると現在の株価は約3倍になっています。また、日経平均株価や同業他社に対してもアウトパフォームしていますので、資本の使い方が評価されているのかと思っています。
――その要因をどのように分析していますか。
当時、当社には三つのネガティブな課題がありました。まず、最も大きな課題だったのは海外事業のボラティリティーの高さでした。しかも、ボラティリティーが高いだけならまだいいのですが、時にマイナスに触れることもあり、株価を大きく下げる要因になっていました。
次に、業界全体の課題ですが、火災保険の赤字が常態化していることです。特に17年と18年に発生した大規模台風では巨額な赤字となりました。そして三つ目が、大量に保有している政策株です。マーケットの変動に応じて当社の企業価値も変動するのに加え、株価の上下動にROE(自己資本利益率)が左右されるといった現象が起きてしまいます。
これらの課題解決に取り組んできた結果、株価の上昇につながったと見ています。
――まず海外事業ですが、15年に英損保会社のアムリン(現MSアムリン)を約6300億円で買収しましたが、その後は苦しい状況が続きました。
海外事業については、東南アジアについては現地の会社や競合を含めて当社がナンバーワンであり、強固な営業基盤を持っています。ですが、欧州に関しては、MSアムリンと再保険会社のMS Reインシュアランスについては苦しい状況が続きました。
そこで、われわれ持ち株会社が直接行動するわけではありませんが、現地の経営トップたちとは折に触れ「当社グループの企業価値の足を引っ張っている」と何度も伝えるなど、コミュニケーションを深めてきました。ボラティリティーの低い保険種目にリソースをシフトするなどして、ここ1~2年は成果が出てきており、海外事業は安定的に利益が出るようになっています。
――火災保険は黒字化が見えてきました。
何度か値上げをさせていただきましたので、25年度にはようやく黒字化できそうです。
――政策株についてですが、保有額が大きいだけにROEに影響が出てしまいます。政策株の売却状況および売却益の使途についてはどのように考えていますか。
旧ビッグモーター問題以降、損保業界は構造的出直しを迫られ、その一環として兆円単位に上る全ての政策株の売却に踏み切らざるを得なくなった。では、その売却益の使途についてどう考えているのか。また、政策株を売却する一方で新たに株式による純投資を行うが、その考え方について樋口CFOに明らかにしてもらった。