リジェネラティブ農業で
環境生態系が改善
鳥居:リジェネラティブ農業の取り組みを教えてください。
サミュエルズ:前述した通り、大麦を除く原料の生産者はすべてケンタッキー州中央部から30マイル以内のところにいます。私たちは年に2回彼らと会い、2日間のセミナーを開催します。そのセミナーでは、世界の再生型農業のリーダーであるゲイブ・ブラウンが自身の経験を語ります。
彼はノースダコタ州に4000エーカーの牧場を持っています。彼は、従来型の農業を続けてきましたが、一時期廃業寸前に追い込まれました。従来型の農業システムでは、繁栄するステークホルダーは化学会社だけなのです。ゲイブは生き残りに必死だったので、何か違うことをしなくてはいけないと考えました。
そして、再生型農業を学びました。土壌の健康が重要であり、土壌の健康を改善するために何ができるかを理解しました。土壌の健康が改善されると、肥料などの投入物を大幅に削減できます。それが今、私たちが進んでいる道です。この農法で世界中のすべての生産者を支援していきたいと考えています。
鳥居:あなたの会社は生産者にそのための研修資金を提供しているのですか?
サミュエルズ:はい。リジェネラティブ農業に認証されるための費用も支援します。その認証は、土壌の健康状態を65種類もの異なる指標で測定し、最高がレベル5で5段階で評価されます。私たちの農地スターヒルファームはレベル4ですが、不耕栽培、輪作、化学物質の削減などを続けて土壌の改善を続け、レベル5を目指しています。
この10年間で周辺の環境生態系はかなり改善し、野生動物や昆虫が増えました。時間の経過とともに、さらに美しい地域になると確信しています。 従来型農業から再生型農業に移行することが、自然の回復にとって、そして食材をより風味豊かなものにするための最善策だと信じています。
鳥居:私たちの会社バリューブックスの社員は300人くらいで、3分の2は女性です。私がバリューブックスのCEOに就任したのは昨年2024年なのですが、 男女格差の問題を解決したいと思っています。と言うのも、日本では一般に、男女の賃金格差があります。高給の職務には主に男性が就いています。それが今日の日本の現実なのです。
そこで私たちは、女性がキャリアアップできる機会を増やし、社内でキャリアを築けるようにネットワークの機会を増やしたいと考えています。また、自分が大事だと思うことや関心のあることと仕事をつなげるようないくつかのプロジェクトを始めました。こうした点についての貴社の状況や活動を教えてください。

サミュエルズ:製造部門のメンバーは全員、男性も女性も同じ作業を行い、待遇は平等です。最高レベルのポジションに就く女性リーダーが数名います。例えばメーカーズマーク蒸溜所の総支配人は女性です。酒類業界で30年働くベテランで、才能があり、その素晴らしいリーダーシップに常に感服しています。グローバルマーケティング担当バイスプレジデントも女性です。私は、できる限り最高の人材を雇いたいと思っています。 チーム内で多様な視点を持つ人材がいることは本当に重要です。
ところで、ウイスキーのテイスティングでは、女性の方が優れている傾向にあるようです。平均的な女性の舌には、平均的な男性よりも多くの味蕾があります。私たちのテイスティングパネルには30人ほどのメンバーがいて、そのうち21人は女性です。すべての女性がそうではないと思いますが、多くの女性は味覚が鋭いですね。
鳥居:私はバリューブックスで働き出す前は、全く異なる業界で仕事をしていました。私は自分のキャリアのなかで以前やってきた仕事のことも大切に思っていますが、同時に、現在の仕事は私の価値観とより合致していると思います。
サミュエルズ:確かにそうですね。一緒に働く人たち、つまり社員の価値観と会社の価値観が一致していることが望ましいですね。これは非常に大切です。私の会社の社員が優れた仕事をするためになぜ努力を惜しまないかと言えば、彼らが会社やそのミッションを信じているからです。私たちが誰であるか、何を支持しているか、原則に基づいた決断すべてを肯定してくれているからです。
鳥居:短期的な利益追求と長期的なビジョンの実現のバランスをどう考えていますか。
サミュエルズ:私は将来に向けてブランドを確立することに多くの時間を費やすようにしています。ブランドのソフトな側面です。損益計算書に直接的には表れませんが、損益の基盤となります。もちろん財務状況を健全に保つことは重要だと考えています。一方で、メーカーズマークの何が消費者に愛されているのか、私たちの成功とは何か、今後100 年ビジネスを続けるため懸命に取り組むべきことは何か、こうしたことを常に自問しています。
私たちは、製品の品質に関して妥協はしません。私たちは、創業者のビジョンに合致した先駆的方法で革新する必要があります。私たちは社会に貢献し、積極的に活動する必要があります。長期的には、社員を大切にし、地域社会に関わり、理想高いパーパスを持つ企業こそ、市場を上回る業績を上げると考えています。善い行いはビジネスにとっても良いことなのです。
これらの価値観を持つことがどのような利益をもたらすのかを、数値で示すことはできません。しかし、社員が常に良いウイスキー作りに努力を惜しまないのは、誇りを持っているからだと思います。社員は私たちが彼らを信頼していることを知っています。そのブランドが象徴するものを信じています。だからこそ社員は毎日、作り手として、私たちの期待以上の成果を上げているのです。(了)