保険大激変#22Photo by Akiko Fujita

 損害保険業界の一連の不祥事の余波は、大企業グループに属する企業内代理店や保険ブローカーと呼ばれる保険仲立人にも及び、健全な競争環境を目指して業界のルールが大きく変わることになった。ところが、規制強化と緩和が混在しており、先行きは不透明なものとなっている。特集『保険大激変』の#22では、両者の論点を整理した。(ダイヤモンド編集部編集委員 藤田章夫)

立場の不明瞭さから規制強化へ
企業内代理店のM&Aが加速

 2024年11月25日、三菱ケミカルグループはグループ内の保険代理店事業を、英保険仲立人(ブローカー)大手のエーオンに売却することで基本合意した。エーオンは、企業向けの保険契約の仲介やリスクコンサルティングを手掛ける外資系ブローカーで、日本国内ではブローカー事業と代理店事業の両方を手掛けている。

 この報に接した複数の業界関係者は、「今後、こうした動きが広がるだろう。ただ、事業を引き継ぐのはかなり大変だと思う」と話す。

 今、保険業界でもほとんど話題に上ることがなかった企業内代理店や保険仲立人に、にわかに注目が集まっている。大手損害保険会社4社が手を染めた保険料の事前調整行為、いわゆるカルテルにより、古くからある商習慣が企業向け保険マーケットにもゆがみをもたらしていることが明らかになったからだ。

 企業内代理店とは、主に大企業グループに属する保険代理店で、所属する企業グループの火災保険や賠償責任保険などの企業保険に加え、従業員向けの保険契約を取り扱う代理店のことだ。つまり、保険契約者(企業)の一部門でありながら、保険会社の代理という立場も兼ねている。

 故に、損保業界の構造的課題について議論を行った有識者会議の報告書では、『その立場が構造的に不明確なものになっており、一部の事案では、企業内代理店を介した競合他社との競争関係情報のやりとりが発生するなど、独占禁止法の抵触リスクを高めていた恐れがあった』と指摘されている。

 片や、保険仲立人については、活用を促進するべきだと同報告書には書かれている。1995年の保険業法改正で新設された保険仲立人は、顧客から依頼を受けて、保険会社から独立した立場で顧客に最もふさわしい保険商品をアドバイスする役割を担っている。

 もっとも、保険仲立人は外圧によって導入されたという経緯があり、多額の保証金を積まねばならないなどさまざまな規制が掛けられている。登録事業者数は63社(24年10月時点)で、保険料のシェアは0.9%(23年度)と、ほとんど普及していないのが実情だ。

 こうした状況を受け、損保会社と企業内代理店を介した企業保険マーケットの健全な競争環境の確保に向けて、企業内代理店への規制を強める一方、保険仲立人への規制を緩和する方向で議論が進められている。ただし、専門的な知見を有する企業内代理店も存在することから、一律の規制に対する反発もあり、とうてい一筋縄ではいきそうもない。

 そこで、次ページでは、損保会社と企業内代理店、保険仲立人の関係を整理した上で、ルール変更の論点について詳述する。