二重価格については大反対です。日本の評判がかなり悪くなります。カンボジアやミャンマーのような、貧しい発展途上国だったらわかりますが、経済大国の日本がそれをやるのは恥ずかしいこと。外国人に対して排他的なやり方は、絶対によくない。

 オーバーツーリズムの原因は、インバウンドだけではありません。例えば修学旅行シーズンには、京都にもたくさんの日本人が押し寄せます。

 一つだけ例外をあげると、「本当の地元の人」は無料にするか、割引したらいい。地元住民が行く寺や公園が、観光客が多過ぎて行けないというのは、残念なことですから。

『ニッポン景観論』書影『ニッポン景観論』(2014年、集英社新書)

――しかし、日本でも二重価格を求める声は日増しに増えている気がします。

 日本人と外国人で差別するのは、まずい考え方だと思います。日本は鎖国が続いたので、まだ排他的な考えが社会に残っています。だからこそ、絶対に避けた方がいい。商店や飲食店にたくさんのインバウンドが押し寄せるのは、受け入れるしかないです。

 一方で、地元優待策はいろいろ考えられます。地元住民に「優先パス」を設けるのはどうでしょうか。そういうシステムに対しては、外国人も納得できると思います。

 観光名所の場合は、金額を上げる、事前予約のみにする手もあります。ただし、値上げは学生やお金のない人が行きにくくなります。事前予約は、本当に行きたい人だけが行けるようになります。興味半分の人たちは、事前予約のような面倒なことはしませんからね。

 事前予約にすれば、例えば京都の桂離宮や西芳寺(苔寺)がそうですが、1グループの人数制限があるので、業者がチケットを買い占めて大型バスで大人数が押し寄せるようなことができなくなります。

 キャパオーバー対策には、人数制限するのもいい。ギリシャ・アテネの「アクロポリス」(パルテノン神殿などの世界遺産)が、そうした入場制限を設けています。

 富士山も1日の登山者数を4000人に制限しましたね。通行料は2000円ですが、安すぎると思います。富士山を登る価値を考えると、1万円でもいい。富士山はトイレの管理にもお金がかかりますし、非常に特別な場所だから、通行料を上げればいいのではないでしょうか。

※編集部注:山梨県側の登山口では24年夏から通行料1人2000円徴収をスタート。静岡県は25年夏から1人4000円を始める方針で、山梨県もそれに合わせる見込み。
「富士山の登山料は1万円でもいい」日本文化研究家が力説する納得のワケ米国生まれ。1964年初来日。 少年期に体験した日本の美しさと失われゆく現状を国内外に訴え、次代へ残すべく、文化芸術活動の推進、講演、執筆活動などを行い、日本各地に残る美しい風景と文化を守り伝える事業を推進。著作に『美しき日本の残像』(朝日新聞出版)、『犬と鬼』(講談社)などがある。
「富士山の登山料は1万円でもいい」日本文化研究家が力説する納得のワケ